本研究は、熱水噴出域固有生物の組織に特有の成分であるチオタウリンとその前駆体であるヒポタウリンを手がかりとして、深海の熱水噴出域に生息する生物が、環境中の硫化水素の毒性に適応するメカニズムの解明を目指している。本年度の研究成果は以下の通りである。 1.HPLCによる遊離アミノ酸分析の手法について、移動相のグラジエント等の改良を行った。それにより、一般的な遊離アミノ酸とシステインスルフィン酸、ヒポタウリン、チオタウリン等の本研究で注目している物質を同時に定量できるようになった。 2.研究航海NT13-05において採集し、システインやシステインスルフィン酸、およびさらに上流の物質を閉殻筋に注射したシチヨウシンカイヒバリガイ個体の遊離アミノ酸解析を行った。その結果、注射した物質は血リンパ中に入っていたが、組織には殆ど取り込まれていなかった。今後は組織抽出液を用いて生化学的なアプローチを試みる。 3.研究航海NT13-05において得た、条件の異なるコロニーから採集した個体と、同一コロニー由来の個体を採集後異なる温度に曝露した個体について、タウリン輸送体(TAUT)遺伝子の発現を調べたところ、一定の温度上昇により遺伝子発現レベルが上昇することがわかった。また、ヒポタウリン合成に関わるシステインジオキシゲナーゼ(CDO)システインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(CSAD)遺伝子の発現も検討中である。 4.CSADと構造・機能が類似するグルタミン酸デカルボキシラーゼのcDNAについて、前年度よりさらに長い領域をを、シチヨウシンカイヒバリガイから単離することができた。また、シロウリガイからもTAUT、CDO、CSADをコードするcDNAをそれぞれ単離した。
|