東南アジア海域における動物プランクトンの多様性に関する情報の整備・拡充を目的として平成22年度は以下の項目について調査・研究を行った。 1. 動物プランクトン試料データベースの構築:マレーシア、ベトナム、タイの研究協力者との協働により各国沿岸域からの採集資料を収集・整理し、データベースに登録した。 2. 沿岸および縁辺海域における動物プランクトン群集の時空間変動:上記試料をはじめとする既存試料の分析により、主要分類群および種の時空間変動を明らかにした。とくに、半閉鎖的で高温・均質な中・深層で特徴づけられるスールー海では、中・深層性カイアシ類の種数が周辺海域に較べ著しく小さく、かつ多くの固有種が生息することが示された。また、ヤムシ類について東南アジアと日本近海を含む西部北太平洋の広範な海域における文献情報を収集・分析した結果、種多様性が北緯40度を境に北側で激減すること、種組成に7つのパターンがあり各々が特徴的な分布と季節変動を示すことなどが明らかになった。 3. 分類学的知見の拡充:セレベス島(インドネシア)沿岸およびスールー海で採集された動物プランクトン試料から浮遊性カイアシ類の未記載種12種を見いだした。これらは現在新種として公表準備中である。 4. 遺伝学的解析:11月~12月にタイとマレーシアで現地調査を実施し、サンゴ礁、マングローブおよびアマモ場に生息する動物プランクトンの採集により、カイアシ類、アミ類、ヤムシ類を中心として、種の同定と遺伝子分析のための固定試料を得た。現在これらの試料を分析中である。また、上記スールー海に関する分析からは、特定種のカイアシ類で周辺海域とは遺伝的に大きく異なる集団が存在することが示された。
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