研究課題
研究では、魚類の性分化過程と生殖機能の遺伝的・環境的制御の分子生物学・生化学・生理学的背景の解明を目標としている。本年度では、まず、遺伝的性決定機構および環境依存的性決定機構を併せ持つ南米原産のパタゴニアペヘレイ(Odontesthes hatcheri)の性分化関連遺伝子の発現動態について、遺伝的性関連マーカーを受け継ぐ本種の系統(Ehi-M13)で精査したところ、抗ミュラー管ホルモン(Anti-Mullerian hormone, "amh")遺伝子のデュープリケイト遺伝子は存在することが示唆された。そこで、両amh遺伝子を詳細に調査し、塩基配列の同定、発生段階における発現動態、生殖腺の性分化過程とタイミングとの関連性やin situハイブリダイゼーション法による組織上のmRNAの検出、さらに遺伝的性関連マーカーおよび表現型性との関連性などの結果から、デュープリケイトのamh遺伝子は通常雄雌両法に存在するamhとは異なり、遺伝型雄特有の遺伝子であることが判明した。加えて、FISH法による染色体核型解析を行った結果、本遺伝子はパタゴニアペヘレイのY染色体と思われる染色体の一本のみに存在することから"amhy"遺伝子と命名し、本種の雄化決定遺伝子であることが明らかになった。なお、amhyは現在発見されている他の雄化決定遺伝子(sry、dmy)のような転写因子と異なりホルモンであることから大変注目されている。一方、ペヘレイ(O.bonariensis)の繁殖能力に及ぼす高水温の影響を把握するために、下垂体、脳および生殖腺における生殖腺刺激ホルモン(GtH)βサブユニット遺伝子(FSH-β、LH-β)ならびに糖タンパク質ホルモンαサブユニット遺伝子(GPH-α)の発現部位を精査し、さらに発現動態に及ぼす高水温の影響を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
最初に挙げられた各々の課題について確実に成果を上げている。また、本研究の成果をトップレベルの科学雑誌を含む国際ジャーナルおよび学会発表にてコンスタントに公開している。
現時点で特に推進方策の変更が必要はないと判断しているので、概ね当初計画の通りで実施する予定。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (2件)
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