研究課題/領域番号 |
22380114
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
酒井 隆一 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (20265721)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 海洋生理活性天然物 / ガレクチン / グルタミン酸受容体 / ペプチド / ポリアミン / シナプス受容体 |
研究概要 |
ガレクチン:海綿から見出した新規ガレクチンCchGは、グルタミン酸受容体の糖鎖に結合してそのチャンネルの 動態を制御する。これまでにCchGはアミノ酸146個からなるプロトタイプガレクチンで少なくとも2種の分離できないアイソフォームからなることがわかっている。今回、X結晶解析を行ったところ通常のガレクチンが2量体であるのに対しCchG は4量体を形成し、特異なドーナッツ型の構造をとることが示された。また、純粋なCchG に活性があることを確認するためリコンビナントタンパク質rCchGを作製した。rCchGは天然物と等価の性状を示したので、その活性を調べたところ天然物同様にグルタミン酸受容体の脱感作を阻害した。また、その阻害はラクトースの添加で完全に阻害された。一方、脊椎動物由来のガレクチン:マアナゴガレクチンCongerin IおよびガレクチンIについてそれぞれ活性を調べたところ、CchGと類似の脱感作抑制作用が観測された。これらの結果はガレクチンが脳内で何らかの受容体調節機能を持つことを示唆する。 アーキュレイン:アーキュレインの構造単位として単離したプロトアーキュレインBの構造決定を行い、トリプトファンにポリアミンが結合したこれまでに無いアミノ酸であることを明らかにした。この化合物にペプチド部分が結合し、ジスルフィド結合を形成したものがアーキュレインBであると推定している。 低分子神経活性化合物:マウス、ゼブラフィッシュ幼魚、そして培養神経細胞を用いたスクリーニングで興味深い活性を示した海綿より活性成分として構造既知のアミノ酸を単離し、それが新規のNMDA型グルタミン酸受容体のアゴニストであることを見出した。また、ホヤより新規の芳香族化合物2種を単離し、現在その構造決定を遂行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究はおおむね計画通りに進行しているが、得られた結果の中には当初予測しなかった興味深いものが多く、更なる研究の進展が期待できる。しかし当初計画に記載した項目で達成できていない部分もある。海綿の新規ガレクチンCchGは、グルタミン酸受容体の糖鎖に結合してそのチャンネルの 動態を制御する。ガレクチンは脊椎動物の中枢神経に存在するが、その機能には不明な点が多い。当初レクチンとシナプス受容体の関連性をさらに検討するため、神経細胞を用い、広く動物レクチンの作用を詳細に検討することを計画したが、CchG、マアナゴガレクチン、そしてヒトガレクチン1についてそれぞれのグルタミン酸型受容体に対する作用を詳細に調べ、カイニン酸型受容体のN-末端ドメインに存在する糖鎖にガレクチンが結合して受容体の脱感作を抑制することを明らかにした。この成果はレクチンの神経調節作用を示す新しい知見である。また、CchGの結晶構造解析を行い、これまでに無い4量体ガレクチンであることを明らかにした。また、CchGの発現系を構築し、タンパク質を大量に得ることに成功した。発現実験にとどまらずレクチンの大量調製法を見出したことは予測を上回る結果である。当初他の海綿に見られたガラクトース結合型レクチンの分離、海綿におけるレクチンの役割の解明等の計画に関しては現在進行中である。長鎖ポリアミンを含むペプチド、アーキュレインに関してはアーキュレイン-BのN-末端に相当すると思われるプロトアーキュレインBの構造を予定通り決定した。ACU類縁体の分離、ACUの蛍光標識体を合成、血球や酵母を用いた生体膜に対する作用に関する実験は現在進行中である。マウスやゼブラフィッシュを用いたスクリーニングで活性を示した抽出物より新規化合物3種、既知(活性は未知)化合物1種を単離した。これは計画通りの成果である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果から、海洋生物の水溶性抽出物にはタンパク質、ペプチド、低分子化合物と幅広いタイプの生理活性物質が含まれていることがわかった。またその作用標的もシナプス受容体から細胞膜までと幅広い。これまでのスクリーニングで多くの抽出物に活性が見られることから、今後分離を進めて行くことでさらに新規の生理活性物質が得られる可能性が高いので、探索研究を推進してゆきたい。本研究では、アーキュレインのような生理活性ペプチド、CchGのようなタンパク質が活性成分として得られ、またその遺伝子についての知見を得ることもできた。今後、これら生理活性ペプチド・タンパク質に関しては変異体を作製するなど、さらに多様な化合物群の創成を行ってゆきたい。特にシステインノット構造を持つと考えられるアーキュレインは医薬品として利用されているコノトキシンと共通のモチーフを持っており、多彩な生理活性を発揮する化合物のプラットフォームと捉えることができる。今後はアーキュレイン類の全構造開明、活性発現機構の解明と、類縁体の創成を推進してゆく。同様にレクチンを始めとしたタンパク質についても変異体やラベル化体を作成することで、その作用機構の解明を行うとともに、標的受容体に特異的なラベル化試薬の創出が期待できる。一方、水溶性低分子化合物は比較的単純なアミノ酸由来化合物であるもののユニークな構造を持つものが多い。しかし、単純なアミノ酸誘導体でもPregabalinやGabapentinのように医薬品として有用である化合物も開発されている。そこで、これら天然物をモチーフとした誘導体の合成を推進することで、得られた化合物の活性発現機構の解明、さらには活性の向上を図るとともに多様な活性物質の創出を図りたい。
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