ミオグロビンの可視部吸収はメト化(酸化)率やミオグロビン濃度を算定するために必須であるが、この波長域には筋肉脂質由来と思われる濁りが存在し、少なからぬ影響を及ぼすものと考えられた。Soret帯吸収については、ミオグロビンの自動酸化に伴って最大吸収波長が僅かながら変動することを認めた。 一方、酵素活性に及ぼすミオグロビンの影響を調べるために、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)および筋原繊維Ca-ATPaseに対して還元型およびメト型ミオグロビンの存在下で測定した。その結果、ADHに対しては、メト型ミオグロビンは酵素活性を増強させる傾向を示したが、還元型は阻害する傾向を示した。SODについては、メト型・還元型共に活性を阻害することが判明した。これらの影響は、基質の酸化還元状態を変化させた結果と考えられる。一方、ミオグロビンはCa-ATPase活性を阻害したが、その機構については今後の検討課題である。 最後に、グロビン類の分布と生理機能の関連性について検討を加えた。ニジマスなど数種魚類の筋肉および非筋組織について、ミオグロビン遺伝子の転写および翻訳レベルを調べたところ、特に心筋および血合筋で転写、翻訳レベルが高いものの、生殖腺や鰓におけるレベルも比較的高く、タンパク質レベルでも発現が認められたことから、非筋組織におけるミオグロビンの、酸素貯蔵ではない生理機能の重要性が示唆された。免疫組織学的観察により、ミオグロビンは主として各組織の表層に分布することが明らかにされた。ニジマス小脳においては、ミオグロビンの発現レベルが高いだけでなく、グロビン・スーパーファミリーに属するニューログロビン・アイソフォームの発現量も高く、両者の相補的関係が示唆された。
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