研究概要 |
家畜糞尿のメタン発酵処理及び消化液の肥料利用による温室効果ガス削減量の基礎資料を得るため,中国江蘇省金壇市薛埠鎮において,豚糞尿汚水のメタン発酵処理施設から発生する消化液を使用して水稲の実証栽培試験を実施した。施肥設計基準として,金壇市の稲作暦と消化液成分組成から,水稲基肥として13.3トン/ヘクタール,穂肥として7.8トン/ヘクタールの施用基準を設定した。消化液はタンク車を用いて圃場まで運搬し,灌漑水と混合して流し込みながら施用した。その結果,消化液を使用した液肥試験区は水稲の籾重で864kg/10aの収穫を得た。化成肥料を使用した慣行試験区では791kg/10aであり,消化液は化学肥料と遜色のない肥効を示すことが確認された。この試験成果により,養豚企業及び周辺耕種農家は,メタン発酵消化液の肥料効果を強く認識し,冬場の麦作からは12haの農地において消化液の肥料利用を開始した。ただし,当該地域における養豚業者は,糞尿汚水のメタン発酵処理を導入しているものの,その多くを投棄していることが伺われた。そのため,GHGの発生量を正確に見積もるためには,糞尿発生量及び処理量を正確に把握したうえで継続して記録をする必要ことが重要であり,現在はこれらの方法を検討している。 他方,我が国におけるCO_2排出量削減の施策の一つとして,飼料米の利用が考えられる。そこで,米国から輸入されるとうもろこし飼料と地元で生産される飼料米を給餌した鶏卵生産に関して,それぞれエネルギー起源のCO_2排出量を計測した。その結果,地元で生産される飼料米を給餌した鶏卵のほうがエネルギー起源のCO_2排出量が少ないことが示された。これより,飼料米の利用は,水田農業の維持のほか,地球温暖化防止策としても有効であるというコベネフィットを有することが明らかになった。さらに,東アジア諸国における水質汚染と農業生産の関係についても分析を行った。
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