研究課題/領域番号 |
22380121
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
矢部 光保 九州大学, 大学院・農学研究院, 教授 (20356299)
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研究分担者 |
田中 宗浩 佐賀大学, 農学部, 准教授 (50295028)
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キーワード | 温暖化ガス排出削減 / 有機性廃棄物 / 有機液肥 / 社会技術 / 水質汚染防止 / 環境影響評価 |
研究概要 |
第一に、江蘇省金壇市の農家と協力し、水田4.2haを対象にした水稲の液肥実証栽培を実施した。液肥は現地養豚業者から排出される糞尿汚水及びメタン発酵消化液を用い、液肥搬送はパイプラインを敷設して実施した。圃場では、液肥と灌概水と混合しながら圃場へ流し込む「肥培かんがい施用」の効果を検証した。その結果、圃場全体で約2550トン(窒素含有量1056kg)の液肥を均一に散布することに成功した。つまり、水稲作で液肥を使用することによって、1056kgの窒素成分に相当する化学肥料の使用を削減すると同時に、同量の畜産廃棄物の投棄によって引き起こされる環境汚染の低減を達成する成果を得た。 第二に、環境改善には人々の意識改革が不可欠である。そこで、地元小学校の協力を得て、5年生100人を対象に循環授業を行い、その後、水田における生き物調査を行った。そして、これらの活動が児童とその保護者の環境意識に与える影響を評価した。その結果、生き物調査に参加した児童やその保護者は、そうでない児童や保護者に比較して、統計的に有意に環境意識が深まったことが明らかになった。 第三に、江蘇省揚州市での国際農業博覧会で特別セッションをもち、液肥利用の現状と課題、中国における取組に関して報告を行い、その成果をプロジェクト資料集として刊行した。 第四に、生物多様性保全の経済コベネフィットの有無を検証するため、兵庫県豊岡市におけるコウノトリ保全の事例として、コウノトリ保全の取組が地域経済に与える影響を産業連関分析により解析した。その結果、コウノトリ保全型農業への転換によって地域経済へのプラスの効果が発生し、コベネフィットの存在が実証された。同様の分析を中国の事例に適用することで、養豚による水質汚濁防止対策がもたらす経済コベネフィットを明らかにできる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、我が国の先進的な液肥利用技術に基づき、養豚糞尿からの消化液を水田に散布する社会システムを導入し、13ヘクタールの水田に施肥して収穫を行った。これにより、家畜糞尿は投棄されず、農家の肥料代金も節約され、さらに米は緑色農産物として販売された。その意味で、当初目標にした社会実験の側面は想定以上の成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画では、我が国の先進的な液肥利用技術をクリーン開発メカニズム(CDM)と共に導入するならば、メタン回収に基づくクレジットの販売収入により、事業の経済性が確保され、地球温暖化防止とともに水質汚染防止等にも貢献することを想定していた。しかしながら、COP17における我が国の京都議定書第二約束期間への不参加という事態を受け、我が国のCDMに関わる研究計画について必要な修正を行う。
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