本研究の目的は、集落営農と企業的経営が連携し、地域水田農業の高度化を図っている取組みの実態を分析し経営的かつ社会的な発展性と持続性を備えた地域水田農業のあるべき姿を提示することである。 本年度は、東北地域において活動を展開する大規模農業法人の展開過程及び経営実態に焦点を当て、分析を行った。その結果、明らかとなったのは以下の点である。 第1に、調査対象の大規模農業法人は、周年雇用を図る目的もあり経営の多角化を図っていた。多角化を図る上で、近隣の農業法人や流通加工業者、関係機関との連携が非常に重要な役割を果たしていた。また、それにとどまらず、近隣の農業法人と、経営や栽培技術等の情報交換や資材調達の協力等を積極的に行っている姿も確認できた。 第2に、高い経営レベルにある経営体であっても、営業利益は赤字であり、補助金や雑収入等の営業外収益を加算した経常利益でようやく黒字になっていた。そのため、政策的助成への依存度を低くし、経営の収益性、安定性の高度化を図るためには、農地集積による拡大という「規模の経済」や複合化・多角化等の事業領域の拡大という「範囲の経済」の追求だけでなく、他の経営体や異業種との戦略的提携という「連結の経済」という経営革新を追求することが今後の課題となることが明らかとなった。 第3に、大規模農業法人は、経営革新により経営規模を拡大・発展させているが、一方で、水利の調整、水路・農道・畦畔等の地域資源管理の担い手として、地域農業に対する配慮を地域政策として行っていた。その結果、地域・集落に対して地代や雇用機会という私益と農地の荒廃の抑制や地域資源の維持管理という公益を提供することで、地域農業との互恵的な関係を維持していた。しかし、今後は、地域における高齢化や相続による地域資源管理の放棄や関心の低下によって、大規模経営体への一方的な負担の増加が危惧される。
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