研究概要 |
本研究では,地域の農業用淡水資源である池田湖の水質について,特に水温と溶存酸素の時空間変化を観測データに基づいて明らかにすることを目的とする.長期的な変化としては,気候変化が湖水質に及ぼす影響を検討するために,池田湖の水質に関する過去の観測データを収集・整理し,長期の水質変化特性について考察を加える.この目的のため,今年度は,湖面上の養殖漁場筏を利用した気象観測システムの構築を行い,周辺の気象庁観測気象データとの比較対比を行った.また,筏を利用して溶存酸素の時空間変化の観測を行った.これらの観測は次年度以降も継続し,水温と溶存酸素の時空間変化特性を検討する数理モデルの構築のための基礎資料とする. 長期的な観測結果のとりまとめにより,世界の湖沼の温暖化傾向と同様に,近年の気温と湖水温の上昇は対応している.また,溶存酸素は,1980年以降,水深100m,200mで減少傾向にあり,近年では,貧酸素状態にあることが分かった.また,2010年8月から2011年2月の月1回の現地観測結果によれば,夏から冬にかけての水温躍層の下層への移行とともに,溶存酸素の高い層が下層に移行するが,水温躍層以下では低い溶存酸素の値となっている.これは,水温躍層が溶存酸素の鉛直混合に対する抑制効果をもつためと推察される. 数理モデルに関しては,水温の再現性を向上させるために,湖水の鉛直混合に影響を及ぼす湖面上の風速について検討した.日平均風速が4m/s以下の場合には,池田湖周辺における気象庁観測風速データと線形関係が認められたが,風速4m/s以上では両者の相関は低い結果となった.この点を考慮して,池田湖の水温解析モデルを再構築した結果,比較的よい鉛直水温分布を再現できることが分かった.今後水温及び溶存酸素の時空間変化を再現するための数理モデルの構築に有用と考える.
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