研究概要 |
本研究では,地域の農業用淡水資源である池田湖の水質に関し,主に水温と溶存酸素(DO)を対象に,これらの時空間変化を,鹿児島県による1980年以降の観測データ及び本研究による短期集中観測データに基づいて明らかにすることを目的とする.まず,気温と水温に関して,この地域の年平均気温の上昇率は,最近の30年間で0.032℃/年であり,これを反映して池田湖の深層の水温上昇率は0.030℃/年である.水深200mの水温は,1980年代において10.2℃であったが2011年では11.0℃である.この温暖化傾向下で,1981~2011年において深層までの全循環が生じたのは,1984,1986,2011年の2月の3回と推察される.2011年2月の全循環は,本研究で集中観測したDOのデータによれば,2010年12月末,湖の水温成層がなくなり鉛直混合抑制効果が減少するとともに,表層のDOが下層に供給され,水深40m付近までのDOが飽和値近くまで上昇する.次に2011年1月,積雪とともに気温が低下し,表層から深層までの水温が一様(約11℃)になる2月中旬には,鉛直混合により深層DOも4mg/Lまで上昇する.一方,この鉛直混合により,深層から上層に輸送される貧酸素水塊により表層のDOは低下し,DOも水温と同様に概ね一様化(4~5mg/L)する.3~4月にかけて,上層のDOは,再曝気により上昇,かつ光合成により過飽和状態も出現するが,水温の成層化につれて,水深50mより深い層では,鉛直混合が抑制され,生物化学的分解による酸素消費とともにDOが徐々に減少する傾向が観測された.ここでのDO動態の再現のため,生物・化学・物理的過程を考慮した数理モデルの構築を行う.すなわち,再曝気による酸素の供給,光合成による酸素生成,生物化学的分解による酸素消費,底質による酸素消費,鉛直渦動拡散混合のモデリングを行った.本年度は,予備的検討として過去(2004年)の水温とDOの再現計算を行い,概ね妥当な結果を得た.
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今後の研究の推進方策 |
今後,本研究で観測した2011年冬の鉛直循環におけるDO動態の再現に向けて,本研究で新たに構築した数理モデルを適用し検討する.また,研究成果を国際的視野で判断するために,次年度,水文学に関する国際会議に参加し,研究発表を行う. 計画の大きな変更はないが,湖水中の溶存酸素のデータをさらにきめ細かく取得するために,観測機器を増やし,次年度も現地観測を継続する.
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