研究概要 |
本研究では,農業用水資源としての池田湖の水温と溶存酸素(DO)の時空間変化に及ぼす気候変化の影響について,水温,DO,気象の観測資料に基づいて検討を加え,さらに数理モデルにより水温とDO動態について考察した。 まず,研究開始初年度(2011年2月)に,湖水の全循環が,25年ぶりに観測されたため,最終年度も引き続き,水温とDOの変化を11月から3月末まで,水深1, 10, 15, 30, 50, 60 mにおいて,1時間間隔で連続観測した。この短期集中観測データは,今後の数理モデルの精緻化や池田湖固有のパラメータ同定に活用できる貴重な観測資料となる。次に,鉛直1次元モデルにより,全循環の生じない時期(2004年)のDO濃度分布は比較的よく再現できた。全循環が生じた場合(2011年)では,表層-底層間の密度逆転の判別をモデルに組み込み,その場合に渦動拡散係数を大きくすることで,全循環過程を概ね再現できることを確認した。また,本モデルによれば,表層では光合成と鉛直混合,中層では鉛直混合,呼吸,BOD,及び深層ではBODが,DOの濃度変化に影響を及ぼす要因といえる。今後,観測データに基づいて,数値計算精度の向上が必要である。気候変化との関係を評価するために,1981年~2011年までの水温解析を行った。1980年代後半の気温の上昇は,湖水安定度指標から判断すると,湖水の安定性を増大させ,その結果,全循環の喪失,さらに1990年以降の21年間の深層無酸素化を引きおこしたと推察される。 以上の研究成果は,水文学に関する国際会議(フィンランド,2012年8月)で発表し,また湖水管理に関わる行政等(鹿児島県池田湖低層水質改善方策検討会,2012年12月;農林水産省農村工学研究所農工研気候変動定例研究会,2013年2月)に対しても情報発信を行った。
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