研究概要 |
複数の水路横断面のうち,陸化に至っていない湿地など多様な環境を含む横断面は,遷移が進まない均質な水路横断面や,遷移が進んだ横断面より水生動物の多様度指数が大きかった。生態系配慮型水路では,悉皆的な土砂上げ,草刈りをする場合,逆に管理できず遷移が進む場合は種多様性が小さいと考えられる。物理的・生物的環境が複雑な横断面で採取されたユスリカの炭素安定同位体比の標準偏差は大きく,評価指標の一つとなり得ることが示された。 圃場整備による維持管理労力の節減効果を明らかにするための基礎として,圃場整備前の畦畔における除草作業の定量化と,その規定要因について考察を行った。その結果,畦畔の除草作業は中・重労作に該当し,その規定要因として作業時の熱環境や作業方法,植生長等が関係していることを明らかにした。また除草作業時の立ち位置や姿勢,植生の種類なども身体に負担をかける要因と考えられた。 岩手県奥州市の環境配慮型の施工を行った原川排水路の浚渫後の土砂の堆積状況や植生遷移について,屋外用の監視計測システム(FieldServer)を用いて画像や水位のモニタリングを行ったところ,7月の草刈り後,1ヶ月でヨシなどのイネ科草本の草勢が回復し,9月中旬にピークとなることが把握できた。また,水位は降雨量が増える8月から増加する傾向を示し,11月下旬以降に急激に低下した。 農業水路における魚類の遺伝的多型と注目すべき遺伝的グループについて検討した.いさわ南部の原川と白鳥川を対象にドジョウのミトコンドリアDNAを解析した結果,両河川の個体から9ハプロタイプが特定され,これらはロシア系と在来系の遺伝子グループに属した.各河川のハプロタイプ数に差はないが,遺伝的特徴(注目すべきグループ)を反映するタイプが出現し,これらは原川では区間的,白鳥川では部分的に分布した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
農業水利施設における生態系配慮施設において,生態系の遷移が生物多様性を減じる可能性があること,比較的短い水路区間内に注目すべき遺伝的特徴を持つグループが存在することが判明した。これらは生態系配慮施設が生物多様性に対するリスクを有する可能性があるという,当初の想定を裏付ける結果であり,維持管理に関するデータの蓄積・解析も進んでいる。 以上から,予定通り最終年度にリスクを軽減する維持管理手法の検討を行える段階に達している。
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