研究概要 |
筋肥大・再生の基盤である「運動神経ネットワーク(神経末端の筋線維への再接着)の再構築を支配する分子機構」を明らかにすることを目的としている。これまでの研究により、肝細胞増殖因子(HGF)および線維芽細胞増殖因子2(FGF2)の濃度依存的に筋幹細胞(衛星細胞)が神経細胞ガイダンス因子Sema3Aを合成・分泌することを見出し、「衛星細胞が運動神経ネットワークを能動的に制御している」という先駆的な細胞間コミュニケーションモデルを提起した。本年度ではこれを更に発展させるため、Sema3A発現を抑制する分子基盤を追究した。衛星細胞の初代培養系を用いて先ず、Sema3Aの発現を抑制する因子を検索した。種々の細胞増殖因子のなかでTGF-β2,3に強い抑制効果が認められ、それぞれ40pM,8pMで最大の効果を発揮する顕著な濃度依存性を示した。これらの最大発揮濃度は発現誘導因子HGF,FGF2のそれ(100-300pM)の1-2桁低いこと、また、HGF,FGF2にTGF-β2,3を共添加するとSema3A発現は完全にキャンセルされたことから、TGF-β2,3がSema3A発現の強力な抑制因子として機能していることが示唆された。さらに、ラットの後肢下腿部の筋を圧迫損傷させて筋再生を誘導する生体モデルを作製し、経時的に回収した再生筋の細胞外液液をwestern blottingに供試したところ、HGFとFGF2は筋損傷後の再生初期に、TGF-β3は再生後期に濃度が上昇することを観察した。以上の結果から、誘導因子(HGF,FGF2)と抑制因子(TGF-β2)の濃度が上昇する時期の違い(タイムラグ)によってSema3Aの発現が巧みに制御されているという「増殖因子濃度依存的な時系列制御機構」が予想された。
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