研究概要 |
哺乳類の卵巣の機能は胎生と関連した複雑な機能群で構成されており,その中には「卵子形成機能」と相反する機能も含まれると考えられる。本研究は,卵母細胞の体外培養技術を用いて,卵巣内の複雑な機能群を解体し,卵子形成に必須な機能を抽出し,再構築することを目的としている。ウシおよびブタの卵巣を材料として用い、研究を進めた。 1)受容体型チロシンキナーゼKITのリガンド(KIT ligand)は,ブタ原始卵胞の生存性を維持したが,原始卵胞の発達開始には作用しなかった。 2)ブタの初期胞状卵胞中の成熟能力のない卵母細胞(直径約110μm)をFSH添加培養液中で5日間培養すると,卵母細胞は顆粒膜細胞に包まれた状態で最終の直径へと発育したが,その後の成熟率は低かった(11%)。さらにdbcAMPを添加すると卵母細胞は発育し,その後の成熟培養によって高率に(68%)第二減数分裂中期へと成熟した。 3)ポリビニルピロリドンを含む培養液を用いた開放型培養法によって,ウシの初期胞状卵胞より採取した卵母細胞(直径90~100μm)-顆粒膜細胞複合体を2週間培養した。培養液にエストラジオール17βを添加すると卵母細胞が高率に生存し発育したが,その後の成熟率は低かった。一方,アンドロステンジオンを添加すると生存率は低いものの卵母細胞が成熟能力を獲得した。これら両ホルモンを組み合わせることによって,卵母細胞が高率に発育し,成熟能力を獲得する(70~80%)系が構築された。 4)体外で2週間培養したウシ体外発育卵母細胞はリプログラミング能力を獲得しうること,また,レシピエント卵子として核移植に利用できることが明らかとなった。 5)体外で発育したウシおよびマウス卵母細胞は,体内で発育した卵母細胞よりも薄い透明帯を形成した。この薄い透明帯はポリビニルピロリドン添加培養液において顕著であったが,受精は正常に起こった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
卵子形成に関わる卵巣機能の解体と卵子形成機能の抽出に関して,原始卵胞~二次卵胞(発育初期),二次卵胞~初期胞状卵胞(発育中期)および初期胞状卵胞以降(発育後期)に分けて研究を進めている。発育初期に関する研究はやや遅れているが,発育中期以降に関してはいくかの因子の添加によって,高率に卵母細胞が最終の直径へと発育し,成熟する能力を獲得することが示され,研究は当初の計画以上に進展している。
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