研究課題/領域番号 |
22380153
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
菊地 和弘 独立行政法人農業生物資源研究所, その他部局等, 研究員 (20360456)
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研究分担者 |
柏崎 直巳 麻布大学, 獣医学部, 教授 (90298232)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 応用動物 / 発生分化 / 発生工学 / 細胞操作 / 受精 |
研究概要 |
これまでに、発生能が劣る卵(成熟培養時の卵丘細胞が存在しない卵は受精能発生能が乏しいことが報告されている)に、遠心処理により得られる細胞質小片を融合する、いわゆる遠心-融合による卵の再構築法により、受精・発生能の改善が行えることを報告した。この細胞質小片には、褐色小片(B)小片と少ない透明小片(T)が存在し、透過型電子顕微鏡ならびにミトトラッカーレッドで蛍光活性型ミトコンドリアを標識し蛍光観察により、B小片にはミトコンドリアが多量に含まれ、T小片にはミトコンドリアや他の細胞内小器官の分布が有意に少ないことが判明している。このB小片2個、T小片2個、ならびにBとT小片を1個づつを、発生能の劣る卵に融合し再構築卵を作製した。体外受精を行ったところ、いずれも正常受精し、体外胚培養により胚盤胞への発生が認められた。しかし、再構築を行わなかった対照区では胚発生は認められなかった。再構築実験区の間で、受精率や発生率に有意な差は認められなかった。以上の結果より、小片を発生能の劣る卵に追加融合する場合、受精や発生は小片中のミトコンドリアの存在量に影響されないことが明らかとなった。一方で、卵細胞質内のミトコンドリアの活性が卵の受精や胚発生に影響を及ぼすことが報告されている。実験結果より添加されるミトコンドリアの活性というよりも、添加される細胞質に存在するする因子が、もともと低発生能の卵に存在するミトコンドリアの活性に何らかの影響を及ぼし、受精率や胚発生率の向上するものと考察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画として、新たな発生工学技術の開発・応用技術への適用、ならびに生理学的解析再構築卵作製法を確立するため、一連の応用研究を行うこととした。具体的には、1)遠心・融合条件の設定、融合法を検討し、卵再構築法の確立する、2)再構築法を用いると脂肪滴を偏在化させ予め取り除くことが可能であることから、未固定・可視化卵における受精・発生現象の解析を行う、3)ミトコンドリア等の細胞内小器官の分布量に着目しより高い発生能を有する小片を選抜し、これを発生能の劣る卵に添加することで発生能を付与する手法を開発する、4)多精子受精回避するため、受精卵を遠心し、侵入した精子を含む小片と含まない小片を分別し、それらを再構築することで単精子受精卵を作製する手法を開発する、5)再構築により脂肪滴の含まれない再構築成熟卵や胚を作出し、効率のよい超低温保存技術を開発する、そして、6)卵再構築技術をクローン胚作出法に応用することとした。これまで3年間で、1)~3)ならびの6)の一部について研究を遂行した。最終年度(H25年度)で4)5)ならびに6)の一部について検討を行う予定である。研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度(H25年度)は交付申請書に記載した「研究の目的」に従い、以下の件について検討を行う。1)多精子受精回避するために小片の遠心融合法により単精子受精卵の作製を行う。具体的には受精卵を遠心し、ヘキスト等で核を染色し蛍光顕微鏡下で精子頭部(あるいは初期の雄性前核)を含む小片と含まない小片を分別する。精子を1個含む小片と含まない小片を再構築することで単精子受精卵を作製する。体外培養を行い胚盤胞へ発生するかどうかを確認する。2)再構築により脂肪滴の含まれない再構築成熟卵や胚を作出する。これらをガラス化冷却により一定期間超低温保存し、加温後に生存しているか、生存している場合は体外培養により胚盤胞へ発生するかを確認する。3)卵再構築技術をクローン胚作出法に応用する。具体的には通常通り作製した体外受精卵を遠心処理し細胞質小片を作製する。精子を含まない小片を未受精卵に融合し、その活性化能(雄性前核形成能)を確認する。精子が存在しない小片の活性化能について電気刺激等の人為的手法と比較検討する。受精卵に含まれる活性化因子が含まれるため効率的な卵活性化が期待されるためクローン胚作製への応用が期待できる。以上の研究を実践し、当初の研究計画を完了させる予定である。
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