研究課題/領域番号 |
22380154
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
横山 直明 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 教授 (80301802)
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キーワード | バベシア / 赤血球 / 膜 / 原虫 / 免疫回避 / メロゾイト / Spherical body protein / 赤内型ステージ |
研究概要 |
本研究の目的は、バベシア原虫はたとえ赤血球外に脱出した後も宿主赤血球膜を常に纏っており、巧みに宿主免疫から回避していると言う原虫固有の生物学的特性を足がかりに、宿主赤血球膜の再構築を引き起こすバベシア原虫固有の寄生戦略を解読することである。平成23年度は、原虫はどのようにして膜分子を修飾し、纏うための膜骨格の再構築を成し得るのか?や膜分子を修飾したり相互作用する原虫側の分子はなにか?を把握するための分子生物学的研究を行った。 1)バベシア原虫のSpherical body proteinは、他のアピコンプレックス原虫にはないバベシア原虫固有の蛋白質で、赤内型ステージのメロゾイト内で発現していることが明らかとなった。また、Spherical body proteinは免疫原性が高く、診断用抗原としても活用できることが判明した。原虫側の分子として興味深い新規抗原を発見した。2)そのSpherical body proteinは41kDaのバベシア原虫抗原で、メロゾイト内のSpherical bodyと呼ばれる細胞内小器官で合成され、赤血球寄生後期には感染赤血球内に原虫から分泌され、さらには赤血球脱出期に培養上清に放出されることが判明した。その局在動態から赤血球膜骨格の再構築に関わっている可能性が示唆された。3)赤血球凝集の阻害効果があることが知られている(-)-Epigallocatechin-3-gallate(EGCG)はバベシア原虫の増殖を極めて効果的に阻害することが判明した。原虫分子と赤血球膜とのなんらかの分子相互作用が存在している可能性が示唆された。また、EGCGはバベシア症に対する新規治療薬に成りうることも判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)バベシア原虫側の分子として興味深い新規の抗原(Spherical body protein)を発見したこと、2)そのSpherical body proteinはメロゾイトから感染赤血球内に分泌されることから赤血球膜骨格の再構築に関わっている可能性が示唆されたこと、3)赤血球凝集の阻害効果があるインヒビターはバベシア原虫の増殖を極めて効果的に阻害すること、4)バベシア症の診断法や治療薬の開発に向けた新たなシーズを得ることができたこと、5)それらの成果を学術論文として発表できたこと等、当初の計画を着実に遂行することができ、かつ成果を得ることに成功した。本研究課題は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後も本研究では、宿主赤血球膜分子を特異的に認識できる抗体やレクチン、さらには原虫の完全長cDNAデータベースやそのライブラリーを用意/活用して、以下の残された疑問項目を順次解決していく。 1)赤血球外へ脱出したバベシア原虫は赤血球膜因子を纏っているが、それ以外にどのような赤血球膜分子を纏っているのか?2)原虫はそれら膜分子を、原虫の侵入時、侵入後の内在期、あるいは赤血球からの脱出時のどこでどのようにして纏うのか?3)原虫はどのようにして膜分子を修飾し、纏うための膜骨格の再構築を成し得るのか?4)バベシア原虫が赤血球膜を纏う生物学意義はなにか?5)膜分子を修飾したり、相互作用する原虫側の分子はなにか?特にSpherical body proteinの役割は?6)膜を纏うことを不可能とする、あるいはその固有な寄生戦略を標的とした治療薬・予防薬の開発に向けたシーズはないか? 以上の成果を整理し、“宿主赤血球の膜分子から見るバベシア原虫固有の寄生戦略”の詳細を分子レベルで解読し、その成果を学術的に世界に発信する。
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