哺乳類の卵は卵巣内での成長過程でその後の成熟能および発生能を獲得する。しかし、十分な大きさに成長した卵においても、一部にこれらの能力を獲得していないものが存在する。本研究においては、卵成長過程における成熟能および発生能獲得のメカニズムを明らかにし、さらに一部の卵でこれらの能力を獲得できない原因を探ることを目的とする。 そこで平成22年度には、卵成長過程で獲得される成熟能および発生能に関わる因子を明らかにするため、これらの能力を持つSN(surrounding nucleorus)タイプと持たないNSN (not surrounding nucleorus)タイプの卵についてサブトラクション法により、発現量の異なる遺伝子を探索した。その結果、数十の候補遺伝子が得られたが、RT-PCRによる精密な発現量の解析を行ったところ、いずれもSN卵とNSN卵で顕著な差が見られなかった。したがって、今後は定量性の高い網羅的遺伝子解析法であるRNA sequence法により、SN卵とNSN卵で発現量の異なる遺伝子の探索を行う予定である。 また、一方でin vitroでの卵成長(in vitro growth ; IVG)を行う実験系の確立を行った。すなわち、SN卵とNSN卵で発現量の異なる遺伝子が発見された場合、これらが実際に成熟能あるいは発生能に関与しているかどうかを調べるために、成長期卵にこれらの遺伝子のsiRNAを顕微注入し、IVGにより成長させた後にその成熟能および発生能を調べる必要がある。これまでに申請者の研究室でIVGにより十分に成長した卵を得ることには成功していたが、今回はRNAiを顕微注入することで、実際に特異的に標的たんぱく質の発現を低下させ期待した表現型が得られるかどうかの確認を行った。そこで、未受精卵のMII期停止に関わるc-MosのsiRNAを用いたところ、単為発生が進行するという期待された表現型が得られ、IVGの実験系が機能することが確認された。
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