研究課題/領域番号 |
22380162
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
落合 謙爾 北海道大学, 大学院・獣医学研究科, 准教授 (80214162)
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研究分担者 |
大橋 和彦 北海道大学, 大学院・獣医学研究科, 教授 (90250498)
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キーワード | トリのグリオーマ / 中枢神経系腫瘍 / トリ白血病ウイルス / レトロウイルス / 感染性分子クロー / 発癌機構 / トランスジェニックニワトリ |
研究概要 |
研究代表者は「トリのグリオーマso-called fowl glioma」がA型トリ白血病ウイルス(ALV-A)感染症であることを明らかにした。本課題の目的は代表者が分離した神経病原性ALVの解析を通してレトロウイルス誘発性神経障害の分子基盤を解明することである。今年度得られた成績は以下の通りである。1.トリのグリオーマ誘発ウイルス(FGV)のlong terminal repeat (LTR)を遺伝子導入したトランスジェニック鶏を作製してLTRの機能を解析するためにFGV-LTR-GFPを導入したファウンダー鶏(キメラ個体;G0世代)をSPF鶏と戻し交配した。今年度新たに20羽の雛について目的遺伝子の有無を解析したが,ヘテロ個体は得られなかった。2.FGVの病原性規定因子解明に向けてその基礎を築くため,前年度作製したFGVの感染性分子クローンの神経系に対する病原性を感染実験により解析した。その結果,作製した分子クローンは鶏に対し神経病原性を持つことが明らかになった。3.新たにFGVのgag-polおよびgag-envをトリ白血病ウイルスベクターRCAS(A)のそれらと入れ換えたキメラウイルスを作製した。4.神経周膜腫罹患鶏から世界で初めて分離されたALV株のウイルスゲノム全長を解析した。分離株のenv SUは過去に発生した本腫瘍の野外初発例から検出されたenv SU相当領域とは異なることから,本腫瘍は複数のALV株により誘発されることが示唆された。5.FGV特異配列を持つ内在性レトロウイルスの存在が示唆されたこと,およびFGV特異配列を持たないトリのグリオーマ誘発ウイルスが分離されたことから,PCRではなくウイルス分離によりFGV感染率を再度解析したところ,感染率は大幅に減少することがわかった。その一方で,これまでとは異なる地域の日本鶏もFGV変異株に感染していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的のキメラウイルス作製に有用な感染性分子クローンの病原性が確認された。さらにFGVの神経病原性の分子基盤を解明するうえで欠かせないキメラ個体の作製,感染実験を予想以上に進展させることができた。野外例では3例目となる神経周膜腫から世界で初めてALVを分離することができ,本腫瘍は複数種のALV株によって誘発されることがわかった。以上の成績から,順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
感染性分子クローンおよびFGVとRCAS(A)ベクターとのキメラ個体の作製が順調に進展していることから,本項目を重点的に推し進める。また,過去の報告とは異なる神経周膜腫由来ALV株が分離されたことやFGV特異配列を持たないグリオーマ誘発ALV株が存在したことから,正確な感染率を把握するにはウイルス分離が不可欠であることがわかった。これら成績を踏まえ,キメラウイルス間の病原性の比較と野外株それぞれの病原性の解析という2つの観点から神経病原性規定因子を絞り込むことを優先し,その上でトランスジェニック鶏の開発もしくは転写因子の解析に着手することにした。
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