本研究課題における研究目的は、(1)牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV)が牛群に侵入して持続感染(PI)牛が発生するのを阻止するため、牛群への侵入経路を疫学的に解析して、防疫対策に役立てる (2) PI発生機序を解明するために、BVDVの牛体内での免疫回避機序を遺伝子レベルで解明し、宿主側要因を検討して感染防止に利用する (3)BVDV急性感染時の個体レベルでの免疫応答能に及ぼす影響を分析し、生産獣医療における群レベルでの感染症対策に応用する。 バルク乳検査を継続して、清浄化状態を監視した。さらに、公共牧野への入牧牛検査にPI牛摘発検査を導入し、育成牛での感染状況を監視した。ワクチンだけによる防疫対策を実施して入牧時に検査を実施していなかった牧野では、高率にPI牛の潜伏が確認された。これによって、牧野で授精して下牧する牛が、PI胎子としてBVDV感染を農場間で広げる危険性が明らかとなった。 さらに、PI牛が摘発された牛群の免疫状態を評価するため、同居牛についてサイトカインプロファイルを分析した。子宮内感染の多い牛群では、PI成立に密接に関与していると疑われているケモカイン受容体CXCR-4の発現量が低下しており、さらに免疫系がTh2優位な状態(IL-10分泌過剰)にシフトしていた。このシフトは、BVDVワクチン未接種牛群では認められなかった。すなわち、IL-10の分泌が過剰な状態でCXCR-4の発現量が低下する状態、あるいはCXCR-4の発現量が低下している時期にIL-10の分泌が過剰になる状態の、いずれかが誘発されるとPI牛産生(BVDVの子宮内感染)が容易になると考えられた。正確な流行状況を把握せずに斉一的にワクチン接種することは、この状態を招きやすい。本症対策においては、感染状況把握のための検査を励行して、適切な防疫対策を実施することの重要性が示された。
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