研究課題/領域番号 |
22380171
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
内田 和幸 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (10223554)
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研究分担者 |
中山 裕之 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (40155891)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 遺伝子疾患 / 神経疾患 / イヌ / 神経軸索ジストロフィー / 変性性脊髄症 / イヌ壊死性脳炎 / イヌ肉芽腫性脳炎 |
研究概要 |
平成24年度は、新たに末梢神経系の変性疾患について病理学的検討をするとともに、中枢神経疾患のうち遺伝性疾患の可能性がパピオンの神経軸索ジストロフィー(NAD)について次世代型シークエンサーによる解析を実施し、その原因遺伝子の絞り込みが行われた。疾患別に実施状況を記載する。 パピオンの神経軸索ジストロフィー(NAD):平成24年度に次世代型シークエンサーにより全ゲノムを解析し、罹患例に特有の遺伝子変異を検索し概ねその解析を終了した。現在、確認されたSNPの変異について、より疾患特異性の高い原因遺伝子候補の絞り込む作業に入っており、平成25年度には、同遺伝子について、マススクリーニングを実施する予定である。 コーギー犬のALS様脊髄変性症(DM):平成24年度には、神経細胞脱落メカニズムについて新規症例を加え検索しており、コーギーのDMに特異的な病態を明らかにできたため、研究成果を海外の学術雑誌に投稿し、現在マイナーリビジョンを行っている。平成25年度中に結果は公表。 コーギー犬の組織球性肉腫:平成24年度には、コーギー犬の頭蓋内組織球性肉腫の症例より培養細胞が分離され、株化している。平成23年度に次世代型シークエンサーを用いて検討し候補遺伝子の絞り込みを行っているため、既存の犬の組織球性肉腫の細胞株と候補遺伝子の変化について比較検討している。 犬の壊死性髄膜脳炎(NME):平成24年には、皮質型壊死性脳炎(NME)、白質型壊死性脳炎(NLE)および肉芽腫性髄膜脳炎(GME)の3病態についてケモカイン等の液性因子について検証した結果を、海外の学術雑誌に公表した。病態ごとにこれらの液性因子の反応はきわめて異なっていることを世界で初めて発見した。また並行してNMEのげっ歯類モデルの作成に成功したのでこの成果は平成25年度に公表を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イヌの軸索ジストロフィー(NAD)の原因遺伝子解明ついては、ブリーダーの協力により、罹患犬とその両親のDNAサンプルが入手でき、これを次世代型シークエンサーにより解析することにより、その疾患の遺伝子を本年度中に解明できる予定であり、本研究によりもっとも進展した分野である。 イヌの組織球性肉腫については、上記と同様の方法により、コーギーに特有の疾患関連遺伝子としてBMXを特定した。しかし、その後の検索により、現在イヌゲノムのスタンダードとされているボクサー犬のBMX塩基配列が特殊であり、多くの犬種がコーギーで確認された遺伝子型を持つことが明らかにされた。このため組織球性肉腫については、再度次世代シークエンサーの結果の検討が必要となり、研究推進に遅延ができたと考えている。 その他については、新規疾患の摘発や、壊死性脳炎や変性性脊髄症などの病態解明などがほぼ当初の予定どうりに進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、本研究の最終年度にあたるため、本年度前半までにイヌの神経軸索ジストロフィーの原因遺伝子を1ないし2個に絞りこみ、ブリーダーの協力を得て、現在国内で繁殖されているパピオン犬における本遺伝子変化の浸潤状況を把握したい。またキャリア犬を摘発して、これらの交配により疾患が発生することを確認したいと考えている。疾病予防の見地からは、この遺伝子変異を簡易に検査する方法を確立して、一般に情報を提供し、キャリア犬間の交配が行われないように呼びかける。一方、トランスレーショナルリサーチの観点からは、キャリア犬の維持・交配により疾患犬をモデル動物として利用し、治療方法のないヒトの類似疾患の研究や治療方法開発に役立てたいと考えている。また組織球性肉腫については細胞株を本年度中に樹立するとともに疾患関連遺伝子を明確にすることを本年度のゴールとしたい。これについては治療方法の開発につながる貴重なツールになると考えている。 以上の2疾患の知見ならびに他の疾患の病態解明に関する研究成果を総括して、本研究全体の評価としたいと考えている。
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