研究課題/領域番号 |
22380173
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
山手 丈至 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (50150115)
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研究分担者 |
竹中 重雄 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (10280067)
桑村 充 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (20244668)
井澤 武史 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (20580369)
秋吉 秀保 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (50420740)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 慢性腎臓病 / マクロファージ / 筋線維芽細胞 / 肝線維化 / 皮膚創傷治癒線維化 / 抗原提示マクロファージ / 細胞骨格 |
研究概要 |
慢性腎臓病(CKD)は、間質線維化の病態で、その進行にはマクロファージとマクロファージから産生される線維原性因子により誘導される筋線維芽細胞が重要な役割を演じる。本研究では、CKDに出現するマクロファージと筋線維芽細胞の多彩な特性を解析し、さらに肝硬変(肝線維化)あるいは創傷治癒過程で見られる皮膚の線維化病変についても同様の解析を加え、比較した。シスプラチン誘発ラット腎線維化モデルを用いて以下の成果を得た。 1. 出現するマクロファージの機能解析: MHC class II(OX6)発現マクロファージが、線維化の進行(増悪)過程で多く出現することが示された。このマクロファージは、腎組織の胎児から新生児での組織発生過程においても出現し、腎の組織構築にも深く関わる可能性が示された。MHCクラスII発現マクロファージは、線維化の増悪と良好な組織構築の2面性の機能を有することが示唆された。このマクロファージ機能とリンパ球誘導との関連は更に追究している。 2. 筋線維芽細胞の更なる特性解析:筋線維芽細胞に発現する細胞骨格の解析をα-平滑筋アクチン(SMA)、ビメンチンやデスミンに対する抗体を用いて二重蛍光免疫染色を用いて検討した。その結果、ビメンチンとデスミンを共発現する細胞、SMAとデスミンを共発現する細胞が出現することが示された。 3. 肝線維化と皮膚線維化モデルとの比較:チオアセトアミド誘発肝線維化では、GFAP発現筋線維芽細胞が出現するが、腎線維化ではそのような細胞はみられなかった。皮膚の創傷後線維化では、腎線維化でみられたデスミン発現筋線維細胞がみられなかった。また、マクロファージの特性としては、腎線維化と同様にMHCクラスII発現マクロファージが病期の後半に主体として出現する傾向があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究を開始し3年が経過するが、マクロファージと筋線維芽細胞を基軸とした腎線維化の病態解析は順調に進んでいる。これまでに、以下の点を明らかにした(要点のみ記載)。 1. 線維化の病期により異なる機能を有するマクロファージが出現することが分かった。初期では、貪食活性の高い、起炎因子を産生するマクロファージが、一方進展すると抗原提示マクロファージが増加し始めた。2. 細胞外基質を産生する筋線維芽細胞は、ビメンチン、デスミン、α-平滑筋アクチンなどの細胞骨格を発現すること、そしてThy-1陽性の幹細胞に由来する筋線維芽細胞が、初期に出現することが分かった。3. 出現するマクロファージや尿細管から線維原性因子であるTGF-beta1が産生され、筋線維芽細胞の誘導に関わることを明らかにした。4. マクロファージの出現を制御すると、腎線維化の進行が抑制されることを示した。 これらの研究成果は10編以上の論文・総説として公表している。よって、「当初の計画以上に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
抗癌剤であるシスプラチンをラットに投与することで急性と慢性の腎線維化モデルを作出し以下の実験を行う。今年度は、マクロファージと筋線維芽細胞の機能的な特性の解明を免疫組織化学と遺伝子レベルでより詳細に解析するとともに、最終年であることから、これまでに得られた成績に基づいて、本課題の総括を行う。1. マクロファージ群の機能解析とそれにより誘導されるリンパ球の特性:機能特異的な分子抗原に対する免疫組織化学と遺伝子解析法を用いて、早期と進行期など異なる病期において出現するマクロファージの多様な特性を解明する。特に、M1とM2マクロファージ分極化の観点から解析を加え、かつ、リンパ球特異的抗原に対する抗体を用いてM2マクロファージにより誘導されるリンパ球の種類を解析する。2. 筋線維芽細胞の起源細胞と体性幹細胞との関連:筋線維芽細胞には多彩な細胞骨格(α-平滑筋アクチン、ビメンチン、デスミン)が発現することを明らかにしたが、その起源とし骨髄幹細胞由来の可能性を追究する。特に、未分化幹細胞に発現するThy-1とA3抗原発現細胞との関連をより詳細に解析する。3.上皮-間葉転換(EMT)と再生尿細管の関連:尿細管のEMT現象を介した筋線維芽細胞の形成機序をレーザーマイクロダイゼクションを用いて解明する。4. 肝線維化病変の解析:チオアセトアミド誘発肝線維化の解析を「1」の方法を用いて遂行する。5. 皮膚線維化病変の解析:創傷治癒での皮膚線維化病変を「1」と「2」の方法で解析する。6.心筋梗塞モデル:イソプロテレノース線維化モデルを「1」と「2」と同様に解析する。7. 総括:4年間の研究で得た成績に基づいて、腎線維化の病理発生機序を臓器間での病態を比較することで明らかにし、その治療戦術を構築する。
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