日本各地の養蜂場においてセイヨウミツバチが十分に増殖せず、その結果、2008-2009年の冬に花粉交配用ミツバチが不足する事態となった。そこで、私達はセイヨウミツバチと日本在来種であるニホンミツバチを対象として、ミツバチの寄生虫および各種病原体について全国レベルで疫学調査を実施した。その結果、セイヨウミツバチにおいてノゼマ微胞子虫Nosema ceranaeの浸潤率は64%、DWV、BQCV、およびIAPVウイルスの浸潤率は66%以上であり、諸外国と同等レベルであった。したがって、外国同様に日本でもこれらの病原体が原因となる疾病によってセイヨウミツバチが減少している可能性が高い。一方、ニホンミツバチにおける上記病原体の浸潤率はセイヨウミツバチに比べて低かった。ニホンミツバチとセイヨウミツバチの2種間におけるウイルス感染の可能性を探るために、両種から分離したDWV、BQCV、およびDWVウイルスについて系統樹解析を行った。その結果、DWVとBQCVは両種に感染するが、SBVの感染は種特異的であることが分かった。また、IAPVウイルスは2検体のニホンミツバチで検出され、これは隣接して飼育されているセイヨウミツバチから感染したと示唆される。さらに私達は、2010年冬に崩壊した巣箱由来のニホンミツバチからアカリンダニを日本で最初に検出した。そこで、アカリンダニ属の疫学調査を実施した結果、アカリンダニの近縁種であるAcarapis externusとアカリンダニの存在が確認できた。アカリンダニの本来の宿主はセイヨウミツバチであることから、種間を越えてニホンミツバチへの浸潤が始まっていることが分かった。上記の結果から、日本においてセイヨウミツバチの寄生虫やウイルスが在来種であるニホンミツバチに浸潤していることが明確となった。
|