本研究は、初期胚表面に存在し、通常の糖鎖の5~10倍大きな巨大糖鎖で修飾された2種類の糖タンパク質、LeX-gpとhyosophorinに着目して、機能探索とその分子機構の解明を目的としている。今年度の研究成果は次に示すとおりである。 1. LeX-gpの細胞接着機能とその分子機構の解明について:メダカLeX-gpの接着機能における糖鎖の重要性を調べる目的で、LeX構造の合成に関与すると思われる3種類のフコース転移酵素遺伝子の発現抑制胚の作製を試みた。遺伝子抑制が十分でなくはっきりとした表現型は得られなかった。次に、メダカLeX-gpに相当する分子をゼブラフィッシュで探索した。その結果、ゼブラフィッシュにはLeXエピトープをもつ糖タンパク質の存在は見出されず、種特異的な糖鎖構造をもつ分子であることが示唆された。さらに、LeX構造とE-cadherinを併せもつF9細胞からマイクロドメインを調製し、その自己接着能を調べた。その結果、E-cadherin依存的接着は観測されたが、糖鎖依存的接着は観察されず、メダカ初期胚で観察されるような接着における糖鎖機能の普遍性ははっきりしなかった。 2. hyosophorinの細胞増殖促進とその分子機構の解明について:hyosophorinの細胞増殖活性については、種々の試薬を直接胚の外空間に投与する囲卵腔注入法を確立し、抗hyosophorin糖鎖抗体の注入効果を調べた。その結果、胚発生過程へのきわだった効果は観察されなかった。しかし、この抗体は受精阻害効果をもつことが判明し、hyosophorinが胚発生過程よりも受精時に重要な分子である可能性が示唆された。さらに、ゼブラフィッシュhyosophorin(zhyo)の精製と構造決定については、候補分子の精製とその組成分析までは行うことができ、今後の機能解析の基盤を確立することができた。
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