機能性炭素反応剤であるイノラートの新規合成反応を活用した生体作用分子の合成を行うことでその有用性を示し合成方法論として確立させることを目的に種々検討を行った。 a)ステモナアルカロイドは5員環に連続するスピロ環を持つアルカロイドでその立体的密集度からイノラートの特性が生かされる合成法を考案した。イノラートによるエステルのオレフィン化により4置換アルケンを合成し、引き続き高速触媒的ナザロフ反応を適用することにより多置換シクロペンテノンを合成することができた。官能基変換後、ナイトレンのC-H挿入反応により窒素官能基を導入することでステモナミドのB環の構築に成功した。 b)イノラートを用いたアルキノイル酸エステルの高度オレフィン化によりエンインカルボン酸を合成し、これに対して銀塩触媒反応によりアルキリデンテトロン酸の合成に成功した。この系統の誘導体を数種類合成したところ細胞毒性を示す化合物を見出した。 c)イノラートの合成法に発想を得て、ジブロモアミドのダブルチリウムハロゲン交換によりgem-アミドジアニオンの生成に成功した。このジアニオンはエノラートの官能基変換性とビニルリチウムの高求核性を兼備した機能性求核剤であり、フルオロナフトイミンに対する芳香族求核置換反応が進行することを見出した。 d)イノラートによるエステルカルボニルのオレフィン化反応は他の反応剤ではなし得ない特徴的な反応であるが基質により収率が左右される。特にエステルカルボニルα位の置換基がその鍵を握っていることが明らかになりさらに検討したところ、α位に比較的嵩高いヘテロ原子を導入することで収率が向上することがわかった。Felkin-Anhモデルによる反応活性化と中間体の立体配座の安定性、すなわち回転障壁が大きくなることで要因と考えられる。
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