研究課題/領域番号 |
22390002
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
新藤 充 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (40226345)
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キーワード | 生理活性 / 薬学 / 有機化学 / 合成化学 / イノラート / アルカロイド / 全合成 |
研究概要 |
イノラートの特性を生かした新反応を駆使した新しい合成戦略に基づく生体作用分子の合成研究を行った。a)生薬百部の含有成分であるステモナアルカロイドの合成研究:モデル反応としてプロリンとヒドロキシラクトンを縮合させ、官能基変換ののち分子内アシル化による7員環合成を試みたところ高収率でステモナアルカロイドのBC環を構築することができた。次に不斉4級炭素の構築を検討したが、低収率にとどまったため、あらかじめ不斉4級炭素を組み込むこととした。ピログルタミン酸を原料に既知の不斉反応により4級不斉炭素を持つプロリン誘導体を合成し、これとヒドロキシラクトンとを縮合させた。官能基変換ののち分子内アシル化により7員環の合成を高収率で達成した。次に、ビニル基をルテニウム酸化してエステルに変換し、第二の鍵反応となるイノラートによるタンデム環化反応を検討したところ、所望のスピロ3環性化合物(ステモナアルカロイドのABC環)を得ることに成功した。b)エステルカルボニルのオレフィン化の精密化:まずフローリアクターによるイノラートの生成を検討した。ブチルリチウムによるリチウムハロゲン交換反応でイノラートは生成することができたが、発熱や気泡の発生などの問題が生じた。そこで、リチウムナフタレニドによる還元的リチオ化を用いて再度検討したところ、高収率でイノラートの生成に成功した。本手法を用いてケトンやエステルのオレフィン化を試みて所望の生成物を得ることができた。c)抗潰瘍性天然物であるカシオールの合成研究:アリールエステルのイノラートによるオレフィン化で4置換オレフィンを50%前後の収率で得ることができた。続いてクライゼン転位により4級炭素を構築した。次の末端オレフィンのヒドロホウ素化はカルボニルのβ-位をチオラートで保護することにより進行することが判明し、イノラートのタンデム環化反応の原料合成の目途がついた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ステモナアルカロイドの合成は当初の計画以上に進展し、3環性骨格の構築までめどが立った。オレフィン化反応の精密化はフローリアクターの導入に成功したところは計画通りである。エステル以外のオレフィン化は次年度以降に検討する。カシオールの合成研究はタンデム反応の原料まで合成できたので計画通りで順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
ステモナアルカロイドの合成は極めてチャレンジングでインパクトが強いので最優先で研究を推進する予定である。イノラートによる新反応の開発は、ベンザインとの反応まで拡張したい。カシオールの合成研究は大学院生の入れ替わりがあるため、タイムラグが生じやや進行が遅くなる可能性があるが、他の大学院生を投入するなどの対策を講じたい。
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