本研究の目的は、生命現象の解明や創薬の標的としても注目されているサイトカインの働きを細胞外レセプターとの結合様式に始まり、細胞内でのシグナルの伝達機構を原子レベルで解明し、生命現象の本質を物理と化学の言葉で理解すること、並び創薬へ応用することである。平成22年度は以下の研究成果を得た。1)サトカインとその細胞受容体の複合体として腫瘍壊死因子TNFα-TNFR2複合体のX線結晶構造解析から、TNFR1とTNFR2の相互作用様式の違いに基づき、両受容体特異的阻害剤設計の可能性を示すとともに細胞内へのシグナル伝達がTNFα-TNFR2複合体の重合を通して行われているという提案を行った。2)細胞内でのシグナル伝達については、TNFレセプターファミリーと自然免疫に関わるToll様レセプターファミリーの両方からのシグナルを伝達する働きをもつTRAF6とその結合タンパク質TIFA複合体のX線結晶構造解析を目指している。昨年度までにそれぞれ、確立した大量調製法を基に、本年度はさらに立体構造的な純度を指標に種々改良を加えた。TIFAについてはHisタグの切断を行い、生体内試料と同一試料を調製、複合体についてはこれまでのpH8より7や9の方が複合体を形成し易いことを見出した。それらの試料を用いた結晶化では、TIFA単独については幾つかの条件で結晶の再現性は得られるようになったが、まだ構造解析可能な大きさになっていないので、Seeding法や回転法により結晶を大きくする工夫している。TRAF6C-TIFA複合体の結晶化については、pH8の条件で微小のタンパク質結晶が得られていたが、再現性のいい条件を見出すことができていないので、現在pH9や7において結晶化スクリーニングを行っている。
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