本研究では扁桃体-海馬-ストレス連関解明の第一段階として、扁桃体における記憶のメカニズムを解析することに着手した。Arc-Venusトランスジェニックマウスを用いる。このマウスは、Arcのプロモーターの下流にVenus(改変型GFP)をコードするDNAを挿入したものである。神経細胞が活動すればArcプロモーターが活性化され、最終的にVenusタンパク質が産生される。蛍光が強いので落射蛍光顕微鏡でも十分に活動した細胞が確認できる。恐怖条件付け学習課題を行ったマウスから脳切片を作成し、学習課題に伴って活動した神経細胞を狙ってパッチクランプを行った。自発的なシナプス後電位または電流の解より、miniature EPSCが増加することが明らかになった。ペアパルスの解析から、シナプス終末からのグルタミン酸遊離確率が上昇していることが示唆された。さらに、当初の予定には入っていなかったが、シナプスの形態を解析してみた。スパインや樹状突起のSholl Analysisを行った。その結果、恐怖条件付学習単独では、有意な形態学的な変化を起こさないことが明らかになった。次に消失記憶の影響を解析した。消失記憶は60分間、条件付環境に暴露することで行なった。この条件でもVenus陽性細胞が増えることが確認され、恐怖記憶の消去ではなく、消失記憶の獲得であることが分かる。この条件では自発活動の有意な変化は観察されていない。定常状態でのシナプス入力だけでなく、灌流する人工脳脊髄液の組成を変えて、自発的なアップダウン(興奮性のシフト)を誘導し、アップダウン状態におけるシナプス入力やシナプス可塑性を解析することは今後の課題である。
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