研究課題
ヒトは食物として摂取した総エネルギーの約60%を費やすことにより体温調節を行っており、エネルギー代謝系と体温調節系の連携の破綻が様々な代謝疾患を引き起こす可能性が指摘されている。しかし、エネルギー代謝系と体温調節系の両システムがどのような分子機構で協調・連関して働いているのか、その実体は明らかではない。本研究では、エネルギー代謝系と体温調節系を結ぶ分子経路の実体をショウジョウバエの分子遺伝学的手法を駆使して明らかにすることを目的とする。昨年度までの解析で、脂肪体におけるエネルギー代謝が体温調節行動の制御に深く関わることを明らかにした。本年度は、脂質代謝の体温調節行動に及ぼす影響を検討する目的で、まず、食餌中に加える脂質種の影響を検討した。その結果、リノール酸添加培地で生育した幼虫のみに顕著な低温選択性が認められた。そこで、リノール酸産生に関わる△12脂肪酸不飽和化酵素をコードする線虫のfat2遺伝子をクローニングし、UAS-fat2遺伝子を導入した遺伝子組み換えショウジョウバエを作製した。まずfat2を強制発現した個体の脂肪酸分析より、FAT2タンパク質を介してリノール酸の産生が誘導されることを確認した。次に、組織特異的にFAT2を強制発現した個体の温度選択性を詳細に解析した結果、脂肪体でFAT2を発現した場合にのみ、顕著な低温選択性が誘導された。また、この低温選択性は、脂肪体におけるAKT1の発現抑制により阻害されることも明らかとなった。これらの知見は、脂肪体における膜脂質の代謝・脂肪酸組成の変化がインスリン経路を介して温度選択行動に影響を及ぼしていることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
動物がエネルギー代謝レベルを含めた体内環境をいかに把握・統合することにより、個体に至適な体温を設定しているのか、これまで不明であったが、本研究の成果により、哺乳動物の脂肪組織と肝臓の機能を果たす脂肪体が脂質・エネルギー代謝と体温調節行動を結ぶ臓器として重要な役割を果たすことが明らかとなった。
脂肪体から如何なる液性因子が放出され、如何なる神経系に受容されることにより、体温調節行動が制御されているのか、脂肪体から放出される液性因子のメタボローム解析、特異的ニューロンの活動抑制の体温調節行動に及ぼす影響の解析等を通じて明らかにして行く計画である。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (2件) 図書 (1件)
J Biol Chem
巻: 287(12) ページ: 9525-33
DOI:10.1074/jbc.M111.327064
J.Biol.Chem.
巻: 286(44) ページ: 38159-67
10.1074/jbc.M111.281006
PLoS One
巻: 6 ページ: e22984
10.1371/journal.pone.0022984
J.Physiol.Sci.
巻: 61 ページ: S67