研究概要 |
リーリンのC末端領域が下流シグナルの活性化に重要な機能をもつことを見出した。この現象の重要性をin vivoで検証するため、リーリンのC末端領域だけを欠損するノックイン(DC-KI)マウスを作製した。DC-KIマウスはリーリンのゲノム改変として世界初かつ今なお唯一の成功例である。このマウスの脳では、リーリンシグナルの総量(Dab1のリン酸化量を指標に定量)が正常の15%程度まで低下しており、リーリンのC末端領域が「強い」シグナルに必須であることが証明された。DC-KIマウスの胎生期の脳形成は正常であった。しかし驚くべきことに、DC-KIマウスでは生後になってはじめて大脳の層構造が異常になることを見出した。この結果は、リーリンが生後においても機能していること、また、「強い」リーリンシグナルは、胎生期には必要ないが、生後脳には必要であることを示唆している。リーリンには受容体が二種類存在し、しかもそれらが細胞膜上に発現していない(細胞内プールに存在する)場合があることから、免疫染色などを用いてリーリンの標的細胞を正確に同定することは不可能であった。そこで申請者は、リーリン結合性を可視化する新規プローブを開発した。これを利用し、胎生期の脳における新たなリーリン標的部位を発見した。 リーリンが細胞外で特異的な分解を受け、これにより完全に機能を失うことを証明した。そして大脳神経細胞の培養上清(2,000匹以上の脳を使用)から5年以上の時間をかけて精製を行い、リーリン特異的分解不活化酵素の候補として分泌型メタロプロテアーゼの一種を同定した。また、リーリンの分解部位をアミノ酸レベルで決定した。さらに、分解部位直前の残基に点変異を導入することにより、分解を受けないリーリン変異体を作出することに成功した。
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