好中球・単球の局所への血管外浸潤は、炎症性サイトカイン、ケモカイン等の液性因子の局所産生によって誘導される。ヘパラン硫酸は血管基底膜の構造形成のみならず、血管内皮細胞の表面でケモカイン分子の提示など液性因子の機能調節にも関与しており、浸潤に対して多面的に機能することが予想される。炎症の強弱とその持続時間の調節機構のひとつとして、このヘパラン硫酸の切断や代謝が重要であると考え、ヘパラン硫酸切断酵素であるヘパラナーゼが炎症にどのように関与するのか検討した。 ヘパラナーゼ阻害剤SF-4を起炎症物質と共にマウス背部の空気嚢に投与する系を用い、その炎症調節効果を検討した。SF-4の共投与により、好中球・単球の浸潤細胞数が有意に減少した。空気嚢浸出液中のケモカイン濃度はSF-4の投与の有無に関わらず同レベルであったため、SF-4はケモカイン産生ではなく、浸潤過程自身を阻害していることが示唆された。実際、単離好中球を用いた細胞レベルの検討でも、モデル基底膜を通り抜ける浸潤細胞数はSF-4の添加で有意に抑制された。一方、SF-4は好中球の運動性自身には影響を与えなかった。さらに、LPSを腹腔中に投与して誘導される全身性の炎症について検討を行った。SF-4の同時投与により肝、腎の臓器障害マーカー値が有意に減少することが示された。本炎症モデルで好中球の浸潤が複数の臓器で誘導されることを考えると、ヘパラナーゼの活性阻害によって全身での炎症細胞の血管外浸潤が抑制されることが予想される。この点に着目し、SF-4の炎症抑制機構を明らかにしていきたい。
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