研究課題
本研究はマラリアと住血吸虫症の2大寄生虫病に有効な広範囲治療薬を開発することを目的としている。我々が抗マラリア薬として開発している環状過酸化化合物N-89が住血吸虫に対して肺移行期(住血吸虫感染後2週目)投与で虫体殺滅効果を、肝臓寄生期、雌雄接合開始期(住血吸虫感染後5週目)投与で産卵能抑制効果を示し、いずれも内臓病変を抑制する事を見出し、特許出願した(特願2008-172663,国際公開番号WO2010/001824 Al)。平成22年度はN-89の住血吸虫に対する作用機序を明らかにする事を目的として研究を行った。産卵能抑制の作用機序の解明のため、マンソン住血吸虫感染後5週目のマウスにN-89を投与し、12時間後、及び2週間後の虫体を回収、雌雄別々にタンパク質可溶性画分を調製し、N-89投与時に変動したタンパク質をプロテオーム解析より同定した。N-89を投与したマウスの住血吸虫産卵能抑制は、投与後4週間以上持続している事を考え合わせると、両条件で共通して変動していたタンパク質がN-89の産卵能抑制効果に関与している可能性が高い。プロテオーム解析の結果、雄では構造タンパク質、chaperon等6種類のタンパク質が増加し、5種類のタンパク質が減少していた。雌では構造タンパク質、regulatory protein,chaperon等それぞれ3種類のタンパク質が増加、及び減少していた。このうち、雌で減少していたparamyosineを用いてwestern blot解析を行った結果、N-89投与後24時間でコントロールの1/3に減少していた。次に、N-89の住血吸虫に対する直接的な影響を調べるためin vitroで実験を行った。まず、マウスにマンソン住血吸虫を感染させ、5週目に虫体を回収し、in vitroでN-89を加えたところ、強い阻害効果を示した(EC50値:16nM)。形態観察の結果、N-89投与住血吸虫は有意に虫体が短くなり、ヘモグロビンの消化で生成するヘモゾインの含有量も減少していた。(Taniguchi T, et al., Schistosomicidal and antifecundity effects of oral treatment of synthetic endoperoxide N-89. Parasitol Int.2011 Mar 21.)これらN-89投与によって住血吸虫にもたらされた変化はN-89の住血吸虫の産卵能抑制に関与していると思われる。
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Parasitol Int.
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http://www.pharm.okayama-u.ac.jp/lah/joho/