研究課題/領域番号 |
22390029
|
研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
寺田 智祐 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (10324641)
|
キーワード | 薬学 / がん / 薬剤反応性 / 分子標的抗がん剤 |
研究概要 |
1)マルチキナーゼ阻害剤スニチニブのPK/PD/PGx解析 腎がんの治療薬であるスニチニブは、好中球減少症などの副作用が高頻度で発現するため、標準投与量での治療継続が困難となるケースが多い。昨年度、5例の症例解析をもとに、スニチニブの暴露量増加には、消化管に発現する薬物排出ポンプABCG2(BCRP)の遺伝子多型ABCG2 421C>Aが関わっていることを明らかにした(Anal Ocol,2010)。そこで症例数をさらに19例にまで増やし、ABCG2 421C>Aのスニチニブ暴露量に及ぼす影響について解析した。その結果、ABCG2 421C>Aの遺伝子多型をホモあるいはヘテロで有している場合、野生型に比べてスニチニブの暴露量は有意に高くなることが明らかになった。さらに、Abcg2の遺伝子欠損マウスを用いて、スニチニブの経口投与あるいは静脈内投与時の血中濃度推移を比較したところ、経口投与では遺伝子欠損マウスで有意な血中濃度上昇が認められたが、静脈内投与では差は認められなかった。従って、消化管に発現するBCRPの排出能が、スニチニブの血中濃度規定因子として重要な役割を担っていることが判明した。 2)EGFR阻害剤エルロチニブのPK解析 EGFR阻害剤であるエルロチニブは、肺がんの治療薬として繁用されている。一方、悪性胸水は肺がんの予後不良因子として捉えられており、エルロチニブの胸水移行性を理解することは、悪性胸水を有する肺がん患者の治療戦略を考える上で極めて重要である。そこで、9例の悪性胸水を有する肺がん患者での、血中並びに胸水中のエルロチニブ濃度について検討を加えた。その結果、投与1日目におけるエルロチニブの胸水移行率は約18%だったのに対して、投与8日目には131%と上昇し、反復投与することによってその移行性が高まることが判明した。従って、悪性胸水を有する患者へのエルロチニブの投与は有効であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、新規経口分子標的抗がん剤のうち、透析患者におけるソラフェニブのPK解析、スニチニブのPK/PD/PGx解析とin vitro及びin vivo実験法におけるメカニズムの究明、エルロチニブの胸水移行性に関するPK解析など、特徴ある薬効・薬物動態解析研究を展開して、一定の研究成果を挙げてきたため。
|
今後の研究の推進方策 |
「11.現在までの達成度」に記載したように、これまでの研究はおおむね順調に進展していることから、研究計画の変更は予定していない。ただ、平成24年度が、本研究課題の最終年度であることを鑑み、更なる症例数の追加と、母集団薬物動態解析法に基づいた、より詳細な薬効・薬物動態の個体差を生み出す要因の同定を試みる。最終的にそれらの情報を基にして、新規経口分子標的抗がん剤の体内動態・薬効の個体差解明に基づく投与アルゴリズムの確立を目指す。
|