ターゲティング能を有したアデノウイルス(Ad)ベクターの開発には、比較的分子量の大きい蛋白質を提示することが可能な外殻蛋白質のpIXに標的分子に結合する抗体分子を提示する方法が有用であると考えられている。しかしながら、従来から提示が試みられてきた一本鎖抗体 (scFv) は分子内にジスルフィド結合を有しており、還元条件下である細胞質では分子のフォールディングが妨げられ、scFvを提示した組換えAdベクターが産生できないという問題点がある。昨年度は、分子内にジスルフィド結合を有していながら還元条件化でも安定であるといった特徴を持つラクダ抗体重鎖可変ドメイン (VHH) のpIXへの提示を試みたが、VHH提示アデノウイルスベクターはELISAで抗原特異的な結合能を示したが、抗原発現細胞への特異的な遺伝子発現を示さなかった。そこで本年度は、pIXに提示したVHHの機能保持を目的とした提示方法として、逆順化 (retro化) したアミノ酸配列を用いる方法が有用であるか否かを調べるため、retro化アミノ酸配列を有する改変型Adベクターの作製を試みたが、ウイルス粒子形成が起こらなかった。そこで別のアプローチとして、ファイバー領域をT4ファージのフィブリチン由来ファイバーに置換するとともに、ファイバーノブを欠損させたC末端領域に、ヒトフィブロネクチンtypeIIIドメインの10番目のユニットを基盤とする低分子化抗体様分子であるMonobodyを挿入した。Monobodyは、単一のドメインで抗原と高い結合活性および細胞内 (還元条件下) での高い安定性を有することから、Adベクターに搭載するターゲティング分子として適していると考えた。その結果、Monobody依存的に標的細胞特異的な遺伝子導入が可能なターゲティング能を有したAdベクター開発のための基盤ベクターとしての有用性を明らかにした。
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