研究課題/領域番号 |
22390031
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
高野 幹久 広島大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 教授 (20211336)
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キーワード | 肺胞上皮細胞 / II型細胞 / ABCA3遺伝子 / 形質制御 / lamellar body / 上皮間葉転移 / TGF-β_1 / アクチン骨格 |
研究概要 |
本研究では、肺胞上皮細胞について、1)初代培養細胞や株化細胞の欠点を克服すべく、肺胞上皮由来の株化培養細胞を出発材料とし、特定遺伝子の導入や分化制御因子の併用によって、よりin vivoの細胞に近い新たな肺胞上皮II型細胞モデルを作出すること、および2)薬物による肺障害、特に線維化の分子機構を解明することを目的としている。得られた成果は以下のとおりである。 1)ラットABCA3遺伝子をRT-PCRによってクローニングし、ラット由来RLE-6TN細胞で安定発現系を構築した。この際、Lipofectamine法では成功はしたものの導入効率が悪かったため、ウイルスベクターを用い導入した。導入細胞ではII型細胞に特徴的なlamellar body構造の増加を認めた。またABCA3遺伝子の導入直後では、ABCA3以外の遺伝子発現に変化を認めなかったが、培養日数の増加に伴ってII型マーカーであるSP-BやPEPT2の遺伝子発現が上昇するという知見を得た。このことは単一のトランスポーター遺伝子の導入によって細胞の形質全体を制御しうる可能性を示したものであり、新規性の高い成果と考える。ヒトの細胞でも同様の知見が得られるかどうか検討するために、現在、ABCA3をクローニングし、ヒト由来A549細胞に導入し安定発現株を作成しているところである。 2)薬物に先立ち本年度は、Transforming growth factor β_1(TGF-β_1)によって誘発されると考えられる上皮間葉転移(EMT)とそれを検出するために最適な処置条件、マーカーについてRLE-6TN細胞、A549細胞を用いて検討した。その結果、10ng TGF-β_1で48時間処置することで、アクチン骨格の紡錘状変化を認めた。また上皮系マーカー遺伝子CK19の発現低下、間葉系マーカー遺伝子CTGFの発現上昇等を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Lipofectamine法では成功はしたもののABCA3遺伝子の導入効率が悪かったため、何度も繰り返し検討した。その後、研究協力者(広島大学大学院医歯薬学総合研究科細胞分子生物学教室田原英俊教授・嶋本顕准教授)の協力を得て、ウイルスベクターに切り替え成功したが、当初の想定よりも時間がかかり、ヒトABCA3の安定発現株の作成が少し遅れている。その他の計画については、ほぼ達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ、ほぼ順調に研究が進展しているので、計画に沿って検討を進める予定である。但し、本年度の成果に記載したように、単一のトランスポーター遺伝子の導入によって細胞の形質全体を制御しうるという知見は新規性が高いため、様々な観点からの検証が必要であり、研究スピードが遅れても着実な検討を行いたいと考えている。
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