β-ガラクトシダーゼ(β-gal)遺伝子をkirrel3の遺伝子座に挿入したkirrel3ヘテロ欠損マウスを用いてのLacZ染色により、成獣神経系におけるkirrel3の発現を検討したところ、嗅覚路(嗅球、嗅皮質、扁桃体)、聴覚路(蝸牛神経節、下丘、内側膝状体、聴覚皮質)、大脳辺縁系(海馬、線条体、前頭前皮質)、小脳(分子層、顆粒細胞層、一部のプルキンエ細胞)などにおいて強い発現が認められた。大脳皮質では、二次体性感覚皮質、聴覚皮質、島皮質ではII層からV層の神経細胞に広く発現していたのに対して、前頭前皮質、運動皮質、視覚皮質、一次体性感覚皮質ではII層とV層に発現が認められた。抗β-gal抗体と種々のマーカー抗体を用いた二重免疫染色により、嗅球ではReelin陽性の僧帽細胞やcalretinin陽性の介在神経細胞、GAD67陽性の顆粒細胞にkirrel3の発現がみられた。海馬歯状回においては、顆粒細胞の大部分にその発現が認められたが、nestin及びdoublecortin陽性の神経前駆細胞には発現を認めなかった。大脳皮質及び線条体では、大部分がGluR2/3陽性の投射神経細胞に発現していたが、小脳では主に分子層のparvalbumin陽性の介在神経細胞や顆粒細胞層のNeuN陽性の顆粒細胞に発現が認められた。抗kirrel1抗体、抗kirrel2抗体を用いた免疫染色により、kirrel1は小脳のプルキンエ細胞に、kirrel2は小脳の分子層、海馬の分子層、嗅球の糸球体層などのシナプス部に発現を認めた。 さらに、野生型と比較してkirrel3ホモ欠損マウスでは、オープンフィールドテストでは中心区画滞在時間の有意な短縮を認め、明暗選択テスト及び高架式十字迷路テストでは運動量は有意に亢進していたものの、不安傾向の指標となる明室・オープンアーム滞在時間では差は認められなかった。
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