研究課題/領域番号 |
22390039
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
野間 昭典 立命館大学, 生命科学部, 教授 (00132738)
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キーワード | システム生理学 / フィジオーム / 心筋 / 膵臓β細胞 / 細胞モデル |
研究概要 |
本研究課題は、bifurcation analysisと我々の開発したLead potential analysis(Cha et al.,2009,Biophysical Journal 2009)それに、伝統的なIーV曲線解析を包括的心筋細胞モデルと新たに作成した膵臓β細胞モデルに適用し、細胞機能動作原理と各機能分子の役割を明らかにすることを目的としている。膵臓β細胞の機能メカニズムを理論的解析した成果について2編の論文を完成し、生理学で最も権威あるJournal of General Physiologyに発表することができた。また、付随した論文を本格的な生理学雑誌に発表できた。新たな所見として以下の項目を挙げることができる。 1、これまで発表されているイオンチャネル、トランスポータ、小胞体によるCa濃度調節、細胞内グルコース代謝を細胞モデルに組み込んで、膵臓β細胞のグルコース応答を数学モデルで再現できる。 2、それぞれの機能要素の電気的応答への寄与を時間軸に沿って定量的に解析すると、ATP-sensitive Kchannelが15mM以下の濃度では主要な役割を担っている。それより高い濃度では、細胞内Naの蓄積が電気的活動を主に決定している。 3、平衡点解析をすることによって、細胞膜の興奮性が変化する様子を数学的に示すことができる。 4、グルコース濃度に対する細胞応答の背景に細胞機能モード遷移がある。 以上の結果は、グルコース濃度変化に対する細胞応答のメカニズムを明らかにする生理学的意義に加えて、作成された細胞モデルはこの細胞機能の薬理学的調節のための基盤的知見を供給するものである。即ち、細胞機能モードと膜興奮性を数学的に決定する方法を使えば、薬物作用を客観的、定量的に評価することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
生理学や生化学では、細胞機能を文章表記によって理解するのが伝統的な方法であり、数学的方法を取り入れる研究方法を使った論文は、これまで殆ど極めて限られた雑誌にのみ発表され、学問の流れに大きなインパクトを与えることはできなかった。本研究では、実験研究成果に基づいて、細胞機能の数学モデルを作成し、それに数学的解析を適用し、細胞機能を数学的に理解することができた。この新しい方法論を使った研究成果を最も伝統的な生理学雑誌に発表できたことは、我々の新しい試みが認められたということであり、これからの全く新たな研究の展開の可能性を示すものである。
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今後の研究の推進方策 |
文科省リーディングプロジェクトやさきがけ研究プロジェクトなどで細胞機能シミュレーションは取り上げられているが、参加している研究者あるいはこれまでの研究成果は、「細胞機能を数学モデルを構築し、それに数学的な解析を加える研究」とはかけ離れたものが多かった。その結果、シミュレーション研究の一般的な評価はいまだ高められたとは言い難い。私自身は、とにかく学会内でこの認識を広めたいと念願して、シミュレーション研究成果を本格的な生理学雑誌に掲載することにこだわってきた。 我が国において、この方面の教育を本格的に行っている教育機関も極めて限られている。人材育成が急務である。
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