Angiopoietin-1(Ang1)は、血管内皮細胞に発現するTie2受容体を介して、血管安定化と血管新生の相反する機能を制御する。これまでに申請者は、細胞間接着存在下においてAng1は、Tie2のトランス結合を形成し血管安定化シグナルを活性化すること、一方細胞間接着非存在下においてAng1は、Tie2を細胞外マトリックスにアンカーし、血管新生シグナルを誘導することを報告した。平成22年度は、トランス結合したTie2が血管安定化を亢進するメカニズムについて解析を行った。その結果、トランス結合したTie2は、Notch受容体のリガンドであるdelta-like4(D114)の発現を誘導し、Notchシグナルを活性化することを発見した。Ang1/Tie2シグナルがD114を誘導するメカニズムとして、AKTによるglycogen synthase kinase-3の不活性化と、それに伴うβ-cateninの転写活性化能の亢進が重要であることを示した。また、細胞間接着を有する内皮細胞では、Notchシグナルが活性化しており、ポジティブフィードバック機構としてD114の発現を誘導する。Ang1/Tie2シグナルは、β-cateninを介してこのNotchシグナルによるD114の発現を増強し、それによりNotchシグナルのさらなる活性化を惹起することが分かった。また、Ang1/Tie2シグナルは、Notchシグナルを介して基底膜の形成を誘導し、それにより血管構造を安定化することが明らかになった。Ang1/Tie2シグナル、D114/Notchシグナルは共に血管安定化に重要であるが、これまで両シグナルの相互作用については全く知られていなかった。本研究は、Ang1/Tie2シグナルとD114/Notchシグナルの相互作用をはじめて明らかにしたものであり、大変重要な知見であると考える。
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