研究課題
本研究は、カロリー制限(CR)によるミトコンドリアの機能変化と引き続く細胞質、核へのシグナル(retrograde signal from mitochondrion-to-nucleus、以下、レトログレードシグナル)の活性化という観点から、ほ乳類の老化、寿命制御機構を解明することである。ミトコンドリア呼吸鎖複合体IVのサブユニット6b1 (Cox6b1)のCRのよる上昇とそれによるミトコンドリア機能の変化に着目した。これまでのin vitro解析によって、Cox6b1の発現上昇は、細胞の増殖や酸化ストレス耐性を誘導することを明らかにした。今年度は、Cox6b1過剰発現マウスの表現型の解析を行った。Cox6b1のmRNA発現レベルを生理学的な範囲にするためにプロモーターを設計した。マウスでは、PCR、サザンブロットによって、Coxb1遺伝子の導入を確認し、Tgマウスとして繁殖させた。複数の臓器において、Coxb1-mRNAの発現レベルを野生型マウスと比較したが、結果的に、Cox6b1の発現上昇を確認できなかった。メス、オスマウスを高脂肪食(HFD)、通常食自由摂食群(AL)、30%カロリー制限群(CR)に分け9ヶ月間飼育したが、摂食量、体重の増加に関して、Tgマウスと野生型マウスの間に有意差はなかった。酸化ストレス耐性についても有意な結果は得られなかった。一方、in vitroにおける解析では、Glycogen synthesis kinase (GSK)3-bの抑制によって、Cox6b1が誘導されていることを確認した。しかし、この制御機構は、他研究グループが示唆したような、GSK3bとCox6b1の物理的な結合が関与していることは、確認できなかった。
3: やや遅れている
当初の予定にあるCox6b1過剰発現マウスが作成できなかったことによって、Cox6b1のin vivoにおける解析が遅延している。一方、in vitroにおける研究は概ね予定通りであるが、研究実績の概要に示したように、Cox6b1の発現制御機構におけるGSK3bの関与について、他研究グループと異なった結果が得られたこと、それを確認する作業に時間を要した。
In vivoにおけるCox6b1の機能解析をすすめるために、flox-Creシステムを用いたコンディショナルノックアウトマウスの作成を試みる。これによって、臓器特異的ノックアウトマウスを作出し、in vivoにおけるCox6b1の機能解析を進める。一方、in vitro系において、Cox6b1-mRNAの発現調節機構を解明する。予備的にプロモーター領域の配列を解析することによって、AP-1, CREB, b-cateninなどの結合が推測された。今後、これらの転写因子を発端として、Cox6b1の転写制御機構を培養細胞系で解析する。Cox6b1過剰発現細胞を用いて、プロテオーム解析を行い、細胞内シグナル系の変動を明らかにする。これによって、CRのストレス耐性や寿命延長に関連するシグナル系を推定し、in vivoにおける変化と比較する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
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