酸化LDL受容体LOX-1が酸化LDLを結合する際に、その結合を数十倍のオーダーで高める血中分子を同定した(以下co-factorと呼ぶ)。昨年度までの研究で、co-factorがLOX-1と協調して血小板や凝固系に働く可能性が示唆された。さらに、LOX-1が炎症においても重要であることがわかっている。そこで今年度は特に、血液凝固、血栓、炎症が同時に関与する病態に重点を置いて研究を進めた。 エンドトキシンを動物に投与すると、炎症反応とともに、播種性血管内凝固症候群(DIC)と呼ばれる、凝固反応の異常亢進が起こる。そこで、野生型マウス(WT)に、エンドトキシンを注射し、LOX-1の発現上昇を解析すると、もともと発現量の多い肺でも数倍、大動脈などのそれ以外の臓器では100倍程度の発現亢進が見られた。このことからLOX-1の役割がこの系で典型的に表れると考えられたので、LOX-1ノックアウトマウス(LOX-1KO)およびWTを用いて、凝固系の活性化状態を比較した。すると、WTでは6時間後をピークにトロンビン生成の指標であるトロンビン-アンチトロンビン複合体の血中濃度が有意に増加したが、LOX-1KOでは有意な増加は認められなかった。この際co-factorの血中濃度はWTとLOX-1KOで差はなく、LOX-1の有無が直接トロンビン生成に効いていることが示唆された。このように全身でのLOX-1の血液凝固系への影響が確認されたので、今後、血管局所でのLOX-1の血液凝固・血栓への影響の解析を行いたい。 一方、同様にDICを発症しやすい病態である妊娠高血圧症候群についても検討した。ヒト腸間膜動脈を妊娠中毒症患者血清で処理した血管ではLOX-1依存性に酸化LDLによる血管内皮障害が強く見られた。ここでのco-factorの役割の検証は今後の検討課題である。
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