研究課題/領域番号 |
22390052
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
宮澤 恵二 山梨大学, 大学院・医学工学総合研究部, 教授 (40209896)
|
キーワード | 細胞増殖因子 / シグナル伝達 / 細胞運動性 / ペプチドブロッカー |
研究概要 |
代表的な細胞増殖因子であるtransforming growth factor-β (TGF-β)は正常細胞に対して癌抑制的に作用するが、いったん癌化した細胞に対しては悪性化促進的に作用する。本研究では、癌悪性化に関与する細胞応答を選択的に抑制する手法の開発をめざしている。 平成22年度にはbHLH型転写因子Olig1が、TGF-βの下流のシグナル伝達因子であるSmadと複合体を形成し、TGF-βによる細胞運動性元進作用に関与することを明らかにした。また、SmadとOlig1の結合を阻害するペプチドブロッカーを開発し、これが細胞運動性元進を抑制することも見いだした。 平成23年度にはペプチドブロッカーの作用を詳細に検討し、TGF-βが細胞に惹起する応答のうちで、細胞運動性は抑制するが、細胞増殖抑制と上皮間葉転換は抑制しない事を見いだした。細胞運動性の亢進は、癌細胞の転移・浸潤につながると考えられており、癌悪性化に関与する細胞応答である。また、ペプチドブロッカーの細胞応答に対する選択性はTGF-β標的遺伝子への作用の選択性でよく説明できることもわかった。 以上の結果により、TGF-βによる細胞応答を選択的に抑制するためには、Smadと転写因子の複合体形成をターゲットとする手法が妥当であることが証明された。さらに有効な物質をスクリーニングするために、現在、Smad-Olig1の協調的転写制御作用をモニターするレポーターの構築を進めている。 一方、Smad-Olig1複合体による標的遺伝子の転写制御がpeptidyl-prolyl cis/trans isomeraseとして知られるPin1による制御を受けることを見いだした。これは、Smad-Olig1の作用をコントロールするための新たな作用部位となる可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Smad-Olig1複合体の機能抑制ペプチドの機能評価は順調に進んだが,Smad-Olig1複合体による転写活性化のレポーター構築は、PCRを用いる実験系へのDNAのコンタミネーションにより遅れてしまった。
|
今後の研究の推進方策 |
Smad-Olig1複合体による転写活性化のレポーター構築の遅れは、問題点をすでに解決した。今後は順調に進展すると期待している。また、Smad-Olig1複合体の機能調節へのPin1の関与を新たに見いだした。この知見をさらに掘り下げ、細胞応答選択的な制御の新たな作用点を見いだすことが、有効な手法の開発につながると考えている。さらに今回開発したペプチドブロッカーの作用特異性について検討を進めたい。
|