平成23年度までにSmad-Olig1複合体の機能を抑制することにより、TGF-betaによる細胞応答のうちで細胞運動性亢進作用を選択的に阻害できることを見いだした。 平成24年度は、Smad-Olig1複合体の機能がpeptidyl-proryl cis/trans isomeraseであるPin1により制御されているメカニズムの解明を進めた。Pin1がSmadのリンカー領域に結合し、この領域のコンホメーションを変化させることにより、SmadとOlig1の相互作用を促進し、TGF-betaによる細胞運動性亢進を選択的に促進することが明らかになった。実際にOlig1とPin1を各々ノックダウンした時に遺伝子発現の誘導が低下する標的遺伝子をDNAマイクロアレイを用いて解析したことろ、両者には非常によい一致が見られた。また、阻害剤を用いた実験により、Smad-Olig1複合体の形成にはPin1の酵素活性、およびCDK8/9によるリンカー領域のリン酸化が重要であることが示唆された。これによりSmad-Olig1複合体機能の新しい調節点が明らかとなり、この複合体を選択的に制御する手法の開発に新しい手段が賦与されたと考えている。 一方、Smad-Olig1複合体による転写活性化を検出するレポーター系の構築も進めた。TGF-beta刺激した細胞の核抽出液とオリゴヌクレオチドライブラリーを混合し、内因性Olig1を免疫沈降する手法によりOlig1結合配列を決定した。この配列をSmad結合配列を組み合わせてレポーターを構築したが、レポーター活性は検出できなかった。しかし、Smad依存的転写のメカニズムが現状では十分に理解されていないこともあり、Smad結合配列による転写活性化の検討を行った。この知見を用い、将来的にOlig1依存的なレポーター系の構築が可能であると考えている。
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