肝臓は、血液細胞を含む複数種の細胞によって構成された集合体として機能しており、数が少なく、形態による識別が困難な肝幹細胞に的を絞った研究は極めて難しい。この問題に対し、我々は、フローサイトメトリーを用いた細胞分離とクローン解析という精度の高い実験手法を開発することで、肝幹細胞の分離と機能解析を可能にしている。そこで本研究では、これらの手法を駆使し、肝臓の発生過程、再生過程、腫瘍形成過程における肝幹細胞の特性制御機構の解明を試みた。これまでの研究では、肝再生において肝細胞の増殖活性化を誘導する分子機構を発見しただけでなく、発生過程において転写因子やシグナル分子が肝幹細胞の増殖や分化のバランスを調節するメカニズムを明らかにしつつある。また、肝臓における腫瘍形成の研究では、作製した複数の遺伝子改変マウスを用いて細胞の分化破綻による組織形成異常や発癌のメカニズムを解析し、これまで胆管上皮細胞から発生すると考えられていた肝内胆管癌が、実際はNotchシグナルの活性化による肝細胞の分化転換によって生じることを明らかにした。このように、本研究では、将来の肝再生誘導法や肝癌治療法の開発に関わる重要な知見を得ることに成功した。
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