私たちは、先天性神経疾患である滑脳症の新治療薬のターゲットとして、その原因遺伝子LIS1に着目して研究を推進しており、LIS1がタンパク質分解酵素の1つであるカルパインによって分解されること、カルパイン阻害薬が滑脳症疾患モデル(LIS1ヘテロ欠損)マウスでみられる滑脳症(様)症状を個体レベルで改善させることを独自に発見した。現状に於いて、ヒト滑脳症に対する根本的な治療法は未だ確立していないことから、カルパイン阻害薬の滑脳症治療薬として治験・実用化に向けての開発は重要性が高く且つ喫緊の課題である。当該年度(平成24年度)の具体的な研究課題として、私たちがカルパイン阻害薬の薬剤一次スクリーニングとして確立した、滑脳症疾患モデル(LIS1ヘテロ欠損)マウス由来の小脳の顆粒細胞を用いた簡便且つ再現性の高いin vitroでの神経細胞遊走活性を指標に同定した(平成22-23年度)、新規カルパイン阻害薬SNJ1945の薬効(毒性)について細胞、組織、個体の各レベルでの詳細なる検討を行った。その結果、SNJ1945は、LIS1ヘテロ欠損マウス由来の神経細胞に於いて、著しく低下していたLIS1タンパク質の発現量と遊走活性をほぼ正常レベルまで改善させることがわかった。さらに、SNLJ1945は、マウスの行動解析実験(RotaRodテスト、Gait analysisテスト等)の結果、滑脳症疾患モデルマウスに観られる運動失調、学習障害、鬱様行動等の行動異常を顕著に改善させることがわかった。さらに、SNJ1945は生体に於いて、脳―血液関門を通過することから妊娠中の母体への経口投与でその薬効が認められたのみならず、生後新生児への強制経口投与によっても滑脳症様症状の改善が確認できたこと、カルパインに対する特異性の高さによる低毒性からも、ヒト滑脳症治療薬の治験・実用化に向けてのますます期待が高まった。
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