研究概要 |
本研究は、最近我々が見出した新規非コード(noncoding : nc)RNA転写機構の解明を目的とする。タンパク質をコードしないncDNA領域は、ゲノムの9割以上を占めるが、最近、この大部分が転写されてncRNAを生成することが明らかにされた。しかし、ncRNA転写機構は謎の部分が大きい。我々は、cyclin D1遺伝子プロモーターから転写される非コード(promoter-assoclated nc : pnc)RNAが、その発現を抑制することを見出した(Wang et al. : Nature 454 : 126, 2008)。本研究では、このpncRNAの転写機構の全体像を明らかにすることを目的とする。この結果は、ncRNA転写機構解明の基盤を確立することになる。pncRNAは、A, B, D, Eを同定したが、pncRNA-Dを用いる。本年度の研究計画は、1)pncRNAの転写開始点の決定、2)pncRNAプロモーターを認識する基本転写因子の精製と結合部位の決定、3)pncRNAプロモーターの解析である。実際、1),2),3)を推進するためのcyclin D1-pncRNA発現系の構築を行った。pncRNAが転写されるcyclin D1プロモーター領域2kbをZero blunt vectorに組込みヒトHeLa細胞に効率よく発現する実験系を構築した。この系と5'RACE法を用いて、pncRNA-Dの転写開始点を決定している。この解析からpncRNAは200塩基ほどの鎖長であった。この転写開始点上流には既知の転写因子結合部位は見られないが、この領域のビオチン標識DNAオリゴヌクレオチドを作成し、HeLa核抽出液との親和性クロマトグラフィ「法により、結合タンパク質を分離する予定である。以上から、1)および3)が達成され、2)も順調に進行している。本年度の成果は、pncRNAは2kbプレpncRNAとしてではなく、ABDE領域ごとに転写されることが示された。これはncRNA転写研究にとり重要な知見である。23年度以降は,4)DNA損傷刺激によるpncRNA転写を誘導する転写因子の同定、5)pncRNAプロモーター欠損ES細胞の作製とpncRNA誘導の消失実験に挑戦していく。
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