研究課題
「炎症性ストレスによる慢性的な『miRNA機能阻害』によって引き起こされる炎症性発癌」という新規の疾患概念を検証するために、昨年度に樹立したmiRNA反応性GFPマウスを用いて、炎症性発癌モデルにおけるmiRNAの機能変化を検定した。CMVプロモーターで転写される蛍光蛋白であるGFP遺伝子の3'UTRにmiRNA122/let7b/miR29bの標的配列を組み込んだコンストラクトを恒常的に発現するトランスジェニックマウスで、AOM/DSSを用いた大腸の炎症性発癌モデルの過程でのGFPの発現強度を免疫組織染色で検討したところ、持続炎症によってGFPの発現は増強し、慢性炎症に伴ってmicroRNAの機能が減弱することが示唆された。今年度は介入試験を行なうため、薬剤ライブラリーとレポーター細胞を用いてmicroRNAの機能を増強する薬剤を探索した。300種以上の化合物からある種のkinaseがmicroRNA機能を増強することをみいだし、その機構を解析した。その結果、この薬剤はPAIP2と呼ばれるpoly Abinding proteinに相互作用する分子の発現を増やしてその機能を抑制し、microRNAによるpolyAの短縮を増強する作用があることをみいだした。この薬剤を先のAOM/DSSによる炎症性発癌モデルでin vivo投与したところ、確かに腫瘍形成が抑制された。Dicer遺伝子ノックアウトマウスではその効果は見られなかったことから、その作用はmicroRNAの機能を介していることが示唆された。今後さらにその分子機構を解析するのと並行して、他の炎症発癌モデルを用いて炎症性発癌におけるその薬効の普遍性を検証する予定である。
2: おおむね順調に進展している
昨年度はレポーターマウスを樹立し、炎症性発癌の過程におけるmicroRNA機能が予測通り減弱していることを確認した。今年度は、介入試験をするために、microRNA機能を増強する薬剤をライブラリーから抽出することに成功し、その投与に予想通り発癌抑制作用があることを確認できた。
本研究はほぼ順調に推移しており、今後microRNA機能を増強する薬剤による炎症性発癌の予防効果を、今年度用いた大腸癌モデルだけでなくより臨床的にニーズの高い慢性胃炎からの発癌、慢性肝炎からの発癌に応用するとともに、薬剤の分子機構をさらに解明していく。
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