骨形成因子(BMP)2型受容体(BMPR2)の遺伝子異常は原発性肺高血圧症、大腸ポリープ、先天性心疾患(弁肥厚)などと関連していることが知られている。我々の遺伝子改変マウスを用いた研究においても、実際にこれらの疾患と類似した病態をマウスで引き起こすことに成功した。BMPR2遺伝子を組織特異的に欠損されることにより細胞の増殖が亢進することが疾患の発症に寄与すると考えられる。興味深いことに、ある特定の組織でBMPR2遺伝子を欠損させることにより、その隣接する正常(野生型BMPR2遺伝子をもつ)組織の細胞数が増加する現象が観察された。したがって、何らかの分泌される、あるいは細胞膜表面に存在する因子がこれらの疾患の形成に関与していると仮説を立てた。これまで、線維芽細胞がこれらの因子を発現していることを示唆する結果を得たため、マウスの線維芽細胞からRNAを抽出しマイクロアレイ法を用いて遺伝子発現の変化を野生型とBMPR2変異型の両群で比較検討した。変化のあった遺伝子の予測される機能により候補をしぼり、実際にそれらの候補因子が細胞増殖を促進する効果があるか検証を進めている。またBMPR2の特徴的なドメインとして細胞質内のテイルドメインが存在する。エクソン12によってコードされており、このエクソン12をスキップしたBMPR2のショートフォームの存在も知られている。しかしながら、このテイルドメインの機能は未だ不明な点が多い。原発性肺高血圧症患者の中にも、このエクソン12に遺伝子変異をもつ症例が報告されている。我々は、この特徴的なドメインであるテイルドメインの機能を生体内で解析するため、このエクソン12を欠損している遺伝子改変マウスを作製した。現在、この遺伝子改変マウスの表現型の解析を行っているところである。
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