がんの発症には、免疫監視と免疫逃避のバランスが重要であると考えられている。しかし、その分子メカニズムの全貌はいまだ明らかではない。 DNAM-1はT細胞やNK細胞などに発現し、細胞傷害活性を惹起する免疫系受容体である。私達は、DNAM-1のリガンドがポリオウイルスレセプター(poliovirus receptor: PVR)であることを同定した。さらに、私達は、DNAM-1が腫瘍上の膜型PVRを標的として発がんに対する「免疫監視」を行っていることを明らかにした。 一方、PVRにはバリアントの可溶型も存在する。可溶型PVRもDNAM-1と結合することから、私達は、可溶型PVRが膜型PVRのアンタゴニストとして、腫瘍の「免疫逃避」に関与しているとの仮説をたて、これを検証するために、可溶型PVRを産生する腫瘍株を樹立した。この可溶型PVR産生腫瘍株とコントロールであるMock腫瘍株を野生型マウスに移入して腫瘍の拒絶と増大を観察した結果、Mock腫瘍株は全匹において拒絶されたが、可溶型PVR産生腫瘍株は全匹において腫瘍が拒絶されずに、生体内で急速に増大することが観察された。しかし、DNAM-1遺伝子欠損マウスにこれらの腫瘍株を移入した場合には、両腫瘍株の増殖速度と生存率に差は認められなかった。以上の結果より、可溶型PVR産生腫瘍株では、腫瘍が産生する可溶型PVRがDNAM-1による免疫監視からの逃避に関与し、生体が腫瘍を拒絶できなくなることが示唆された。 上記の結果より、可溶型PVRを分子標的とすることで、免疫逃避を阻害し、本来生体が有する腫瘍免疫監視機構を増強する新規がん治療法が開発できる可能性が考えられた。そこで、可溶型PVRに対する特異抗体の作製を試み、PVRを認識する抗体として23クローンを得た。現在、可溶型PVRのみを認識する抗体のスクリーニングを実施している。
|