研究課題
前年度に決定した条件に基づきカニクイザルにシクロフォスファミドとシクロスポリンAを投与し、末梢血白血球が減少した状態を誘導した。この免疫低下状態のカニクイザルにH5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスを感染させた。ウイルス感染から1日後と3日後にコントロール抗体を投与したカニクイザルは感染7日目までに全頭死亡した。一方、ウイルス感染1日後と3日後にヒト化抗H5ヘムアグルチニン抗体を投与したカニクイザルでは感染7日目までに3頭中1頭が死亡し、生存率は3分の2であった。このことから免疫力低下状態下で高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染し場合、作製したヒト化抗H5ヘムアグルチニン抗体は生存率の向上に効果があると考えられた。また、気道のウイルス量を測定したところ、ヒト化抗H5ヘムアグルチニン抗体を投与したサルではコントロール抗体を投与したサルと比較し有意に感染3、4日目のウイルス量が低下していた。さらにコントロール抗体を投与したサルでは炎症性サイトカインが上昇していたが、ヒト化抗H5ヘムアグルチニン抗体を投与したサルでは炎症性サイトカインの上昇は軽度であった。ヒト化抗H5ヘムアグルチニン抗体を投与されたが死亡したサルでは炎症性サイトカインの上昇は見られず、死因がウイルス肺炎ではない可能性が考えられた。感染後期の気道から回収されたウイルスのヘムアグルチニンの塩基配列を解析したところ、ヒト化抗H5ヘムアグルチニン抗体を投与したサルから分離されたウイルスでは抗体結合部位に結合性を低下させるようなアミノ酸が検出され、エスケープミュータントと考えられた。以上より、抗ヘムアグルチニン抗体が免疫力の低下している個体に受動免疫を賦与することで、生体内のウイルスの複製を抑制し、生存率の改善に効果があることが霊長類モデルを用いて判明した。
2: おおむね順調に進展している
免疫抑制状態のカニクイザルにヒト化抗インフルエンザウイルス抗体を投与することができたので、ほぼ当初の予定通りと考えている。
ヒト化抗インフルエンザウイルス抗体をカニクイザルに投与予後、抗体との反応性の低いエスケープミュータントの出現を検出した。エスケープミュータントの出現を減らすために、投与方法の改善とヘムアグルチニンの他の部位を認識する抗体との併用が必要と考えている。そのために、他のモノクローナル抗体の作製を継続する予定である。また、既存の他の抗ウイルス薬(ノイラミニダーゼ阻害剤など)を併用し、エスケープミュータントの出現頻度を解析する実験も検討している。
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Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻: Vol.55 ページ: 4961-4970
DOI:10.1128/AAC.00412-11