前年度までにウェルシュ菌のゲノムに存在する長いIGR(遺伝子間領域)の144領域中53領域が転写されていることを明らかにし、この53のIGRで転写されるRNAについて、ウェルシュ菌野生株からRNAを経時的に抽出し発現パターン分析とRNAのサイズ計測を行い、RNAがIGR 内からの転写であることを確認した。さらにIIGRから転写される低分子RNA (IGR-sRNA) の発現調節パターンを解析し、本菌の病原性調節システムの二成分制御系VirR/VirSに調節されるIGR-sRNAが20個存在することを明らかにした。 24年度は転写調節RNAであるVR-RNAとvirXの変異株を用いて、野生株と変異株 から調製したRNAをノザン解析し、野生株と変異株における転写量の比較を行ない、少なくとも10数個のIGR-sRNAの発現がこれらの調節系により転写調節されていることが判明した。これらより、ウェルシュ菌のグローバル調節系はさらに多数のIGR-sRNA発現を制御することにより、大きな転写調節ネットワークを構築していることが推測された(論文作成中)。 また、ウェルシュ菌の転写調節sRNAの1つであるvirXに関しては、本菌の芽胞形成を制御する可能性が考えられたため、芽胞形成可能で、かつウェルシュ菌食中毒の原因となる腸管毒素を産生するSM101株でvirX遺伝子変異株を作製しその芽胞形成性を解析した。その結果、ウェルシュ菌の芽胞形成に対してvirX-sRNAは負に調節を行ない、芽胞形成に重要であるシグマ因子、SigFの発現を転写レベルで抑制することが判明した。さらにvirXは芽胞形成時に産生される腸管毒素の発現も抑制しており、通常の培養においてはウェルシュ菌の芽胞形成を抑制しつつ急激な増殖と毒素産生を促進し、ガス壊疽の形成に寄与するものと考えられた(論文印刷中)。
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