細胞内寄生菌であるリステリア属の代表的病原菌種、Listeria monocytogenesの主要病原因子遺伝子座LIPI-1に存在する5種類の遺伝子のインフレーム欠損変異株を作成した。最も重要な病原因子であるLLOをコードするhly遺伝子の欠損部位に異菌種の相同遺伝子を組み込んだ相補株を順次作成した。hly遺伝子以外の病原遺伝子の欠損部位へのそれぞれの相同遺伝子による相補株は作成の過程にある。 平成22年度には、それらの組換え株を用いて、マクロファージへの感染におけるサイトカイン応答を網羅的にしらべた結果、以下のような知見が得られた。(1)hly遺伝子の存在は、菌の細胞質への脱出に必須であるのみでなく、感染マクロファージによる各種サイトカイン産生誘導において、とくにIL-1α、IL-1β、IL-18の成熟分泌に必須であった。(2)IL-1α応答は、hlyがコードするLLOがCa++の細胞質内流入を促進することにより、カルパインが活性化され、プロセッシングが進行することを明らかにした。(3)IL-1β、IL-18の成熟化には、LLO依存的なcaspase-1の活性化が必須であり、その過程に働くインフラマソームの形成には、AIM-2が関与することを見いだした。(4)actA遺伝子欠損は、食胞からのエスケープは正常であるが、各種サイトカイン産生誘導能が低下し、ActA依存的なシグナルの存在が示唆された。(5)リステリアのマクロファージによる貪食には、TLRを介したPI3キナーゼの活性化が関与することを明らかにした。以上の知見から、病原リステリアの主要病原因子が、食胞からのエスケープを可能にするとともに、マクロファージのサイトカイン応答を促進する方向での作用も示すこと、細胞質内での動態が宿主サイトカイン応答のプロフィール決定に働くことが示された。
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